山岸凉子──身体と精神のせめぎ合いと心の深みを描く
山岸の描く人物は『雨とコスモス』(1971)の頃より、頭身が高く写実的な画風になっていく。こうした絵柄は、初期の代表作『アラベスク』の本格的なバレエ描写にリアリティを与えた。少女たちの憧れであったバレエは、すでにいくつもの作品の題材となっていたが、山岸は身体訓練の厳しさと、主人公の葛藤と成長を描くことで深みをもった芸術として再提示することに成功した。


『アラベスク』以降、バレエを題材とした短編を発表し続けた山岸だが、とくに2部にわたって連載された長編作品『テレプシコーラ/舞姫』(第1部:2000-06、第2部:2007-10)は、山岸のバレエへのこだわりがもっとも発揮された作品と言えるだろう。現代日本を舞台に、バレエという身体芸術の抗いがたい魅力と、その裏にある厳しさや苦しさを印象的な傍白の表現を織り交ぜながら描く。

山岸もファンタジーや歴史への造詣が深いマンガ家だ。その知見が結実した作品が、聖徳太子を主人公とした『日出処の天子』だろう。山岸は70年代当時は1万円札や5000円札に肖像が描かれ、人々にイメージが共有されていた「過去の偉人」である聖徳太子を妖艶な美少年として描き、飛鳥時代の政治劇の主人公に据えることで新たな像を提示。濃厚なドラマとともに女性たちを引きつけた。

史実を舞台に想像力を広げる山岸の作風は『ツタンカーメン』(1994-97)でひとつの完成をみる。ツタンカーメン王墓の発掘を手がける考古学者を主役にしながらも、そこで起こる不可思議な現象と、古代エジプトに存在した「力」を結びつけ、神秘の魅力と恐ろしさを強い印象をもって作品に刻み込んだ。
少女マンガの響き合うイメージ
セクション4「響き合うイメージ」では、ここまで紹介してきた3人の作品から、共通する5つのキーワードを導き出し、少女マンガに通底する文化を再考している。
例えば「少女漫画とファッション」というキーワード。大和がファッション・デザイナーのガブリエル・シャネルを主人公に据えて描いた『モンシェリCoCo』(1971)のような直接的にデザイナーを題材にした作品を紹介するとともに、つねに読者が憧れるような服装をときに美麗なカラーイラストや、細やかなスクリーントーン使いで表現していたといった共通項を提示。

また萩尾『イグアナの娘』(1992)や山岸『鬼子母神』(1993)に見られる「母と娘の相克」や、儚げで少女的なキャラクターや中性的なキャラクターを積極的に登場させてきたことを振り返る「性の境界」など、少女マンガとは何かを語るうえで重要になる視座をまとめている。
マンガの歴史に多大な影響を与えた萩尾望都、山岸凉子、大和和紀の3人の作歴を丁寧に振り返るだけでなく、そこから「少女マンガとは何か」という根源的な問いを導き出そうとする本展。読んだことがある作品の表現の魅力を再発見し、また読んだことがない作品を知ることができる展覧会となっている。



















