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不穏と熱気に包まれたアート・バーゼル・パリ、抗議行動の影響で早期閉幕へ

社会体制への不満による抗議や破壊行為が各地で発生したフランスで、5年目のアート・バーゼル・パリが開幕した。会場のグラン・パレでは警備が強化されるなか、10月20日から22日にかけて行われたVIPプレビューは盛況を呈した。しかし、今週末に予定される抗議行動を受け、主催者は金曜の23日19時をもって閉幕すると発表した。新ディレクターのもとで新たな局面を迎えたフェアをリポートする。※10月24日24時まですべての方に全文お読みいただけます。

文=飯田真実

アート・バーゼル・パリ2026、10月20日に開催されたアヴァン・プルミエールの様子 Courtesy of Art Basel

盛況の内覧会から、早期閉幕へ

 9月21日にパリ郊外の高校の生徒たちから始まった抗議行動は各地へと広がり、10月に入ると一部で警察との衝突も発生した。17日から18日にかけては、政府の対応への不満、生活費の高騰、将来への不安を背景に、黒い装いをした者たちの略奪や店舗の破壊が相次いだ。パリの中心地でも商店が破損・焼損し、ルーヴル美術館やジュ・ド・ポーム美術館などで閉鎖やイベントの中止が生じた。そうした状況下でもグラン・パレでは、5年目を迎えるアート・バーゼル・パリの設営が進み、会場周辺には車両の突入を防ぐ障壁が設置された。警備員も増員され、主催者は警察当局と連携して安全確保に努めた。出展者によれば、大きな混乱や作品への直接的な被害はなかったものの、コレクターの一部には渡航を取りやめたり、滞在を短縮したりする人もいたという。

 10月20日のアヴァン・プルミエール(各画廊が厳選したVIPのための内覧日)に続き、21日のVIP内覧初日には世界各地からコレクターや美術関係者が集まった。注目ブースの前には人だかりができ、商談が続いた。主要ギャラリーからは初日から高額作品の販売発表が相次いだ。いっぽう、毎年ギャラリーの自己申告によるセールスリポートを見るたび、そこに記された想像を超える金額に驚きつつも、取り引きの実態や数字を公表していない画廊は採算を確保できたのだろうかと疑問を抱いてきた。こうした販売実績の一覧が広く公になれば、フェアや画廊にも嫌悪の矛先が向かうのではないかとも思われた。

 同じ頃、SNS上では24日土曜日にグラン・パレ周辺での抗議行動を呼びかける投稿が広がっていた。「Documentations」は、現代アートをめぐる既存の権力構造や、富裕層が美術品を資産への課税を軽減する手段として利用することを批判している。また、芸術家の収入保障、芸術文化分野で働く人々の社会保障、文化への平等なアクセスを求める「Cultures en lutte」も呼びかけを拡散していた。抗議を鼓舞するような音楽を添えた投稿もあり、芸術文化分野の労働組合「SNAP-CGT」も参加を表明していた。そうした動きのなかで、アート・バーゼル・パリは22日午後、安全上の懸念から週末の開催を取りやめると発表した。

ペースを含む3画廊が始めた共同セカンダリー・ギャラリー「Pace Di Donna Schrader Galleries」のブースで、アメデオ・モディリアーニの《Nu étendu (Lolotte)》(1917)が1億ドル超の価格で出品され、フェアでもっとも高額な作品として報じられた Courtesy of Art Basel

バーゼルモデルが変えたパリのアートエコシステムと課題

 以下は、週末の閉鎖が決定される前に筆者が書き進めていた内容だ。

 アート・バーゼルがパリに進出したのは2022年。長年、当地を代表する国際現代アートフェアだったFIACに代わり、「Paris+ par Art Basel」として始動し、24年に現在の名称となった。地元画廊とのネットワークをもつパリ・ディレクターを立てつつ、アート・バーゼルのブランド力でフェアの国際化を進め、ラグジュアリー業界のメセナや企業財団との連携、中東との関係構築も深めてきた。そのなかで、海外画廊がパリに拠点を構える動きも続いている。

 今回は、スイス出身でアート・バーゼルでキャリアを積んできた35歳の新ディレクター、カリム・クリッパのもと、41ヶ国・地域から211のギャラリーが参加。前年比5増で、32ギャラリーがパリのフェアに初参加した。クリッパは、9月21日に行われた記者会見でバーゼルのフェアとは異なる個性を打ち出しながら、パリの文化的土壌に根ざす方針の継続を強調した。フランス国内で活動する64ギャラリーに触れ、画廊や作家の年間を通じた紹介、文化機関や美術学校との連携を進めると説明した。

 いっぽう、『ル・モンド』は、画廊業界団体「Comité Professionnel des Galeries d’Art(CPGA)」の見解によると、実際の出展者に占める「フランスの画廊」の比率が5年間で29パーセントから21パーセントに低下したと報じた(*1)。フェアが示す「フランス国内で活動する画廊」には海外大手画廊のフランス拠点も含まれる。また、その多くはパリに集中し、フランスの地方拠点の画廊の参加は限られている。国際的なコレクターや画廊を呼び込み、観光や都市経済にも波及効果をもたらすアート・バーゼル・パリ。その成功を、フランスの画廊や作家、地方を含む地域のアートエコシステムの発展にもどう結びつけるかが、今後の課題となる。

*1──Roxana Azimi, “Foire Art Basel : après un week-end sous tension à Paris, le marché de l’art joue son va-tout,” Le Monde, 2026年10月20日。

9月21日にホテル「ル・ムーリス」で開催された、記者発表会でのカリム・クリッパ新ディレクター 撮影:筆者

編集部

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