ブランコが記録する、身体と時間
ヤンセン自身が自身の作品について「パフォーマティブ」であり、そこにはムーブメントが含まれていると言及したように、本展では鑑賞者の身体そのものが作品の状態を変えるものもある。その代表例が、展示室の中央に吊り下げられた《Swings》(2000〜23)だ。約7メートルのロープの先に円形の座面を備えたブランコで、鑑賞者は実際に腰掛け、揺れることができる。

座面には熱に反応する素材が使われており、人が座ると体温を受けた部分の色が変化する。立ち上がったあともしばらくその痕跡が残り、やがて元の状態へ戻っていく。身体の接触とその温度が、一時的な像として表面に記録される仕組みだ。人が乗れば、身体の動きによって周囲の空気も動く。ここでは建築の内部に存在しながら通常は視覚化されない空気が、ブランコの運動を介して意識されることになる。同時に、座面に残される体温の痕跡は、身体がそこに存在した時間を一時的に留める。
撒かれたグリッターがつくる一度きりの像
床面に広がる《Untitled (blue glitter)》(2015〜)も、固定されたかたちを持たない作品だ。用いられるのは、青を基調とするイリデッセント・マイクログリッター。制作に際して行われるのは、それを床へ撒くという簡潔な行為だ。しかし、粉末が落下して広がる状態を完全に再現することはできないため、展示のたびに異なる輪郭や密度を持つ像が生まれる。

グリッター自体も、見る角度やそこに差し込む光によって異なる色に見える。床上に広がる不定形の像は、絵画のような色面をつくりながら、支持体に固定されることなく展示空間のなかに置かれている。
見える色から、頭のなかに生まれる色へ
階上の9階では終日照明が落とされ、光や色をめぐる問いが、異なる方法で展開される。新作《Donut》(2026)は、ヤンセン自身の声による8分46秒のサウンド・インスタレーションだ。本作で彼女は自身の同名の過去作品《Donut》(2003)を言葉だけで描写する。実際の像は提示されず、鑑賞者は声によって伝えられる色や形についての言葉から、それぞれの頭のなかに像を組み立てる。

本来はフランス語の音声のみで構成される作品だが、本展では日本語字幕が加えられた。暗い空間に言葉が断続的に現れては消えることで、音声を聞くことに加えて、文字そのものが光として明滅する状態が生まれている。色を直接見せるのではなく、言語を介して色を想像させることで、ひとつの言葉がどこまで同じイメージを共有できるのかという問いが作品のなかで提示されている。

その近くで展示される《Orange》(2010)は、ガラスの内部に液体を封入した作品だ。鮮やかなオレンジ色を帯びた直方体は、その表面と内部を光が通過することで、見る位置によって色の濃度や透明感を変える。ヤンセンが長く取り組んできた「物質の非物質化」という問いが、ここではガラス、液体、光、色彩の関係を通して扱われている。



















