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アン・ヴェロニカ・ヤンセン「東京、銀座5丁目4-1」展(銀座メゾンエルメス ル・フォーラム)開幕レポート。光と知覚へのインビテーション

銀座メゾンエルメス ル・フォーラムでアン・ヴェロニカ・ヤンセン「東京、銀座5丁目4-1」展が開幕した。会期は2027年1月11日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=大原愛美(編集部)

アン・ヴェロニカ・ヤンセン「東京、銀座5丁目4-1」展示風景

 東京・銀座の銀座メゾンエルメス ル・フォーラムで、アン・ヴェロニカ・ヤンセンによる個展「東京、銀座5丁目4-1」が開幕した。ヤンセンにとって日本初の個展となる。会期は2027年1月11日まで。

 ヤンセンは1956年、イギリス・フォークストン生まれ。現在はベルギー・ブリュッセルを拠点に活動している。70年代後半から、合板やガラス、コンクリートなどの簡素な素材を用いた制作を始め、90年頃からは光や音、人工煙霧といった、明確な輪郭を持たない要素へと表現を広げてきた。彫刻やインスタレーション、映像、写真に加え、コンテンポラリー・ダンスの舞台美術など、その活動は複数の領域にまたがる。

形ではなく、知覚そのものを扱う

 ヤンセンの制作で継続して扱われてきたのが、空間のなかに置かれた身体と、その知覚の変化だ。反射する光や色、透明性、霧、音といった要素を介し、見る者が空間や時間をどのように認識しているのかを問い直してきた。

アン・ヴェロニカ・ヤンセン「東京、銀座5丁目4-1」展示風景

 ヤンセンの作品は固定された物体としてのみ存在するものではなく、光の状態や鑑賞者が立つ位置、身体の移動によって、見えていたものが失われたり、異なる色や奥行きが立ち現れたりする。物質と非物質、可視と不可視のあいだを往還するような状況をつくり出すことで、ヤンセンは鑑賞者自身の感覚を作品を成立させる要素のひとつとして組み込んできた。

 また、こうした関心は、美術の領域だけにとどまらない。2009年にはナタリー・エルジーノとともに、アーティストと科学者が空間、時間、身体、脳の関係を探る「ブレイン・スペース・ラボラトリー」を設立。また、振付家のアンヌ・テレサ・ドゥ・キールスマケルらとの協働を通じ、身体と空間をめぐる実践を展開してきた。

「銀座5丁目4-1」という場所から

 展覧会名となった「東京、銀座5丁目4-1」は、銀座メゾンエルメスの住所そのものだ。ヤンセンはこのタイトルについて、住所が持つ「音楽性」に加え、それが客観的な情報でありながら、同時に誰かをある場所へと招く「インビテーション」にもなり得ると説明する。特定の場所と時間を指定し、そこでの「ランデブー=出会い」を想起させるものとして、この住所が展覧会のタイトルに選ばれた。

アン・ヴェロニカ・ヤンセン「東京、銀座5丁目4-1」展示風景

 本展でヤンセンが扱うのは、それ自体を直接つかむことはできないものの、会場の空間を満たしている、光や空気、時間といった要素だ。それらを変化させ、あるいは知覚できる状態へと置き換えることで、既存の空間とは異なる輪郭を内部につくり出していく。本展では、作品単体を見ることに加え、鑑賞者がそのなかを移動することで生じる知覚の変化そのものが、展示を構成することになる。

光を受け、像を変えるガラスと金属

 8階の展示室では、ガラスや金属を用いた作品が並ぶ。ヤンセンが継続して扱ってきたのは、物体そのものだけではなく、そこに光が当たったときに生じる反射や屈折、そして鑑賞者の移動に伴う見え方の変化だ。

《Magic Mirrors (Pink and Green)》(2013)
《Magic Mirrors (Pink and Green)》(2013) 横から観察すると、表裏を強化ガラスに挟まれた中間層のガラス板に亀裂が生じている様子が見える

 《Magic Mirrors (Pink and Green)》(2013)は、複数のガラス板を重ね、圧力を加えることで内部に亀裂を生じさせた作品。中間層を走る細かな亀裂に光が入り込み、鑑賞する位置や光の状態によって、その表面に異なる色や輝きが現れる。

《Water Glass Roll (110)》(2017)

 同じくガラスを用いた《Water Glass Roll (110)》(2017)は、チェコで制作された鋳造ガラスによる環状の彫刻だ。長い冷却過程のなかで内部の気泡が残る部分と消える部分が生まれ、均質ではない透明度を持つ。床に置かれた円環状のガラスには周囲の光や空間が入り込み、その向こうにある風景もまた作品を介して見える。

《Untitled (23)》(2023〜24)

 壁面に設置された《11.06.23》(2023)や《Untitled (23)》(2023〜24)では、ガラスそのものの構造によって生じる「構造色」が用いられている。表面に顔料で色を塗るのではなく、光の反射や干渉によって色が立ち現れるため、見る位置によって色彩は変化する。《Untitled (23)》では、ドーパミンをメラニンへと変化させ、それをガラス表面に付着させる手法も採用されているという。

《IPE 250》(2010〜13)

 いっぽう、床に横たわる《IPE 250》(2010〜13)は鋼製の梁を用いた作品で、その一面だけが鏡面状に研磨されている。工業製品としての梁の重量感を残しながら、磨かれた面にはガラスブロックの壁や照明、周囲を歩く人の姿が映り込む。ここでも、作品の外側にある光景が表面へと取り込まれ、鑑賞者の移動とともに変化していく。

編集部