東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2で「方丈記に学ぶ─生きるを編み直す小さな建築─」が開幕した。会期は2027年1月11日まで。展覧会ディレクターは建築家の塚本由晴。
出展作家は、江頭 慎、大室佑介+川長組、小渕祐介+中村 純、正田智樹+竹中工務店+ veig、須田悦弘、2m26、山口晃。
『方丈記』をいま、読み直す
『方丈記』は鴨長明(1155〜1216)によって書かれた日本三大随筆のひとつ。鎌倉時代初期の1212年頃に成立したとされる。冒頭の「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という一節に象徴されるように、災害や飢饉、社会不安が相次いだ時代を背景として、世の無常と、そのなかでいかに生きるのかが綴られている。人生の後半、長明は宮廷や都市から離れ、京都・日野山に一丈四方(約9平方米)の庵を構えた。必要最低限のものとともに暮らしたこの小さな住まいのあり方は、後世の建築家や思想家らにも繰り返し参照されてきた。
本展では、この「方丈」を現代の生活を考えるためのひとつのスケールとして捉える。素材や構造、道具、自然との関係など、それぞれ異なる視点から現代の「方丈の庵」が構想された。
本展の出発点には、現代の生活を取り巻く環境への問題意識がある。展覧会ディレクターの塚本は内覧会で、20世紀以降、人間は膨大な建物をつくり、それを支える巨大な産業の仕組みを構築してきたと指摘する。いっぽう、その仕組みを維持しながら地球環境や生物多様性といった問題に対処することは容易ではない。
そこで参照したのが、800年以上前に小さな庵へと移り住んだ鴨長明だった。度重なる災害や飢饉、遷都、人間関係などを背景に都市から離れた長明の姿に、塚本は現代にも重なる背景を見る。


ギャラリー1では、このような『方丈記』と「方丈」をめぐる背景から展示が始まる。壁面には、収集・編集された『方丈記』にまつわる記録が年代順に並ぶ。写本や解説、翻訳などを通して『方丈記』が時代を超えて読み継がれてきた軌跡の紹介に加え、長明と同様に小さな住まいを構えた人々の生活や思想を紹介する「方丈巡礼」も展開される。

また、会場には『方丈記』の記述を手がかりとして、長明の庵の記述を読み解き検証しながら再現した空間「非実在空間としての方丈の庵」も登場する。こうした導入部を経て、鑑賞者は現代につくられた複数の「方丈」へと進んでいく。
「一丈四方」から広がる現代の庵
ギャラリー2の空間のなかには大小さまざまな庵が点在する。参加者たちに共通して与えられたのは、「方丈」という小さな空間を現代においてどのように考えるかという問いだ。
《物置小屋 移築計画》(2026)で大室佑介+川長組が取り上げたのは、20世紀の私小説家・川崎長太郎(1901〜85)が複数の作品内で繰り返し描写した物置小屋だ。


川長組は、詩人・小説家の平出隆、建築家の青木淳と大室、近代文学研究者の齋藤秀昭からなる研究ユニット。川崎が描写した小屋について、作品内での記述や文脈を照合しながら調査を続けてきた。本展では、この物置小屋を原寸大で立ち上がらせ、ひとりの作家が何度もイメージの創出を繰り返した空間を来場者に体感させることで、 『方丈記』と「小さく暮らす」という現代の営みを接続する。


小渕祐介+中村純が構想したのは、文字通り《歩く方丈》(2026)だ。脚を持った構造体が移動するこの作品では、住まいは土地に固定されたものではなく、身体とともに場所を移していくものとして捉え直される。この庵は飼料タンクをメインにつくられており、空調設備や断熱材を備えていない。しかし、住み良い環境を求めて動物のように移動することができる。

さらに、庵の内部には鍵盤が備え付けられており、組み込まれたパイプとつながることでパイプオルガンのように内部音を共鳴させる。この構造の着想源となったのは、『方丈記』に記された庵の「自然や芸術を通して精神を養う」という機能だ。住まいを構成する要素を解体し、別の角度から捉え直すことによって「家とは何か」という問いが可動し、音楽を奏でる構造体として提示されている。





































