「方丈記に学ぶ─生きるを編み直す小さな建築─」(21_21 DESIGN SIGHT)開幕レポート。800年前の「小さな建築」から、いまの暮らしを問い直す【3/3ページ】

建築の外側の「方丈記」

 こうした大きな構造物とは対照的に、会場の思いがけない場所にひっそりと展示されている作品もあった。植物を木で精巧に彫り、彩色する作品で知られる美術家・須田悦弘は、『方丈記』に登場するアサガオの記述に着目した。現在「あさがお」と呼ばれる植物は奈良時代頃に中国から渡来したとされるが、古典に登場する「あさがお」は、現在の桔梗など別の植物を指していたとも考えられている。

須田悦弘《朝顔》(2026)の花弁には一滴の水滴が載っている

 本展では、須田による《朝顔》(2026)が会場のなかにひっそりと現れる。大きな「庵」を探しながら歩いてきた鑑賞者の視線を、壁際に咲く一輪の植物へと向ける仕掛けだ。800年以上前に書かれた言葉を現代において読み返すとき、その意味は必ずしもひとつに定まらない。須田の作品は、植物の名前ひとつにも時間のなかで生じた「ずれ」が潜んでいることを示している。

「生きる」を自分の手に取り戻す

 本展に並ぶ「方丈」は、必ずしも鴨長明の庵を忠実に再現したものではない。文学作品の記述から失われた建築を再構成した作品もあれば、都市を移動する装置、自然との距離を測る庭、ホームセンターの材料からつくる住まいとして読み替えた作品もあった。

 それぞれに共通するのは、普段は意識することの少ない「暮らすために何が必要なのか」という問いを、小さな建築を通じて具体的なものとして考えようとする姿勢だ。電気や水、食料、住居をはじめ、現代の生活の多くは巨大な社会システムによって支えられている。便利さを享受するいっぽう、その仕組みは個人の手から遠く離れ、生活がどのようにつくられているのかを意識する機会は少ない。

展覧会入り口 本展のグラフィックデザインは田部井美奈が担当した

 災害や飢饉、社会の混乱を経験した長明が最後にたどり着いたのは、一丈四方という小さな場所だった。もちろん、800年前の隠遁生活をそのまま現代に取り戻すことはできない。だからこそ本展は、「方丈」をひとつの答えとしてではなく、現在の生活をいったん解体し、自分にとって必要なものを考え直すための尺度として提示する。会場に並ぶ複数の庵を巡ることは、800年前の『方丈記』を追体験することではない。本展における遊びや発見を伴う実践の数々は、いま自分たちが暮らしている環境を別の角度から眺め直すための視点を提示している。

編集部

Exhibition Ranking