「方丈記に学ぶ─生きるを編み直す小さな建築─」(21_21 DESIGN SIGHT)開幕レポート。800年前の「小さな建築」から、いまの暮らしを問い直す【2/3ページ】

鴨長明が現代のロンドンにいたなら

 いっぽう、美術家・建築家の江頭慎は、「もし鴨長明が現代のロンドンに暮らしていたら」という仮定から《ロンドン方丈記 ─ Atlas / Afterimage》(2026)の制作を始めた。長年ロンドンを拠点に活動してきた江頭は、建築を完成された構造物ではなく、時間のなかで場所や人の営みと関係し、その変化を記述し続けるプロセスとして捉えてきた。

江頭慎《ロンドン方丈記 ─ Atlas / Afterimage》(2026)
ロンドンでの撮影に使用された5方向に向いているピンホールカメラ

 本作において江頭はまず文章を書くことから制作を開始したという。つぎに、5方向にピンホールカメラを取り付けた装置を人間の頭部ほどの大きさの「建築」として制作し、さらに、17世紀ロンドンの日常を克明に記録したことで知られるサミュエル・ピープス(1633〜1703)ゆかりの場所などを巡った。

 会場の宙吊りのスクリーンで映し出される映像は、一般的なカメラによる都市の記録とは異なり、像が揺らぎ、重なり合う。日常のなかでは見過ごしてしまう都市の断片を拾い上げることで、長明が身の回りの出来事を観察し、言葉として記したことと、現代の都市を「見る」行為とが重ねられている。

ホームセンターから考える「ユートピア」

 画家・山口晃による方丈《螺庵》(2026)もまた、現代の生活環境から出発したものだ。

山口晃《螺庵》(2026)

 山口が考えたのは、眠ることができ、水を確保できるといった生活の基本的な機能を備えながら、ホームセンターで手に入る身近な材料によって構成できる住まいだ。日本の伝統的な絵画様式と現代の都市風景を重ねてきた山口は、ここでは絵画ではなく「暮らせる場所」そのものを構想している。

 既存の住宅や都市インフラを当然の前提とせず、自分の手の届く素材と技術から生活を組み立て直す。その試みは、壮大な理想都市ではなく、ごく小さなスケールから始まる「ユートピア」の提案でもある。

2m26《living with》(2026) 展覧会後は京都・京北のアトリエの敷地内に移築され、訪れる人が宿泊できる施設にするという

 また、フランス出身の建築家、メラニー・ヘレスバックとセバスチャン・ルノーによる、京都拠点の建築・施工スタジオ2m26による庵《living with》も展示されている。2m26は、家具や住宅からワークショップ、パフォーミングアーツまでを横断し、建築を「自然とともに生きるための道具」として捉えてきた。この庵は山や森、動物とともに生きながら自然の素材を使って少しずつ改修を繰り返していくことが想定されている。この建物において「方丈」という制約は、縮小された住宅というよりも、生活に本当に必要なものを考えるための装置となっている。

自然とともに暮らすことをどう考えるか

 会場内の中庭である「サンクンコート」で作品を展示した正田智樹+竹中工務店+veigは、異なる2つのアプローチから現代の住まいを考える。

《蓑庵》(2026)の内部
《蓑庵》(2026)の外観と《マウン庭》(2026)

 正田と竹中工務店による《蓑庵》(2026)は、蓑虫が身の回りの枝葉を集め、自らの巣をつくる姿から着想されたものだ。外壁には様々な素材が集積され、人間が建築のために新たな素材を生産するのではなく、すでに身の回りにあるものから住まいをつくる可能性を探る。

 その傍らにはveigによる《マウン庭》(2026)が広がる。造園やランドスケープデザインを軸に、生態系のなかの目に見えない関係性を探ってきたveigは、人間の生活と自然環境との距離に着目。人間の生活圏が近づくほど自然は後退し、逆に人間が遠ざかるほど自然が豊かになるという関係を、庭と建築のあいだに立ち現れる空間として提示する。ここでは「自然とともに暮らす」という言葉が単純な共生のイメージとして示されるのではなく、人間がそこにいること自体が環境を変化させるという前提から、自然との距離の取り方が問い直される。

編集部

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