表現の現場調査団は、「表現の現場における数多くの不均衡とそこから派生する差別を撤廃し、すべての人々が安心して関わることができる、自由で平等な場を構築」するという理念のもと、2020年より調査や啓発活動を継続している。過去には2021年3月、2022年8月、2024年6月に調査結果を発表しており、ハラスメントの実情についてのより多くの人の理解を促す活動を行ってきた。今回は4回目の発表となる。
今回発表された「インタビュー調査(質的調査)2025」は、これまでの調査結果を踏まえ、テレビ、伝統芸能、アニメ、ファッション、演劇、音楽、映画、美術などの各分野でハラスメント被害に遭った当事者11名へのインタビューをまとめた白書だ。本調査では、ハラスメントがどのような構造や状況下で発生したかに加え、発生以降の心理的・環境的状態、相談機関の実効性についても実態把握が行われている。本記事では、その要点と美術分野の調査結果を中心に紹介する。
複合化・連鎖するハラスメントとガスライティングの実態

本白書に収録された一般社団法人社会調査支援機構チキラボ・中村知世のコラムでは、個別のハラスメントが独立して起きるのではなく、「一つのハラスメントを契機に次々と異なるハラスメントが重なり、悪循環に陥って重大な事案へと発展していくプロセス」が指摘されている。具体的には、アニメ会社やテレビ制作会社での事例では、不安定な雇用状況や過酷な労働環境に端を発し、過大な業務要求や暴力、金銭の強奪など、複数の被害が連鎖する実態が報告された。
また、被害者の自覚を遅らせる要因として「ガスライティング」の存在が挙げられている。加害者が「あなたのためを思って指導している」と被害者に責任を転嫁する声がけや、「これはあなたが乗り越えるべき問題だ」とする周囲の傍観により、被害者が被害を「恥」や「自分の能力不足」と思い込まされる心理状況に警鐘を鳴らしている。
美術業界における「性別による見下し」と性暴力の実態
美術業界の傾向として、他分野と比較して「性別による見下し」の経験率が顕著であることが報告されている。インタビューに応じた美術家は、19歳の美術大学入学直前に年上の批評家・キュレーターから被害に遭っており、「2人で食事をしたところ、展示の資料が家にあるということや、企画書や応募資料の書き方を教えてあげるから自宅に行こうと誘われて、被害に遭いました」と証言している。警察へ被害届を提出したものの、同意がなかった証拠を集めることの困難さや、周囲からの二次加害に直面し、結果として嫌疑不十分で不起訴となった経緯が語られている。不起訴後も加害者は美術業界で活動を続けており、被害者側にのみ行動変容が課されてしまう不均衡な実態が示されている。
さらに、インタビューからは、ハラスメントの影響がその場限りのものではないことが伺える。「被害の影響が、被害時点で即現れるとは限らず、時間差で心身に現れ、長期間にわたって被害者を蝕み続ける」ケースが多数報告された。
白書では、「被害側が活動休止や離職、通院などの重い代償を払い、社会的行動変容を課される一方で、加害者側は社会的ポジションを維持し続ける」という、影響の不均衡状態が構造的な問題として提示されている。美術系大学における事例では、教授同士の派閥争いに巻き込まれた学生が執拗な施設利用制限や大声での叱責を受け、結果として修了制作の展示に重大な支障をきたした経緯が語られており、教育現場における権威の濫用と被害の深刻さがうかがえる。
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