2021.3.24

ギャラリーストーカー被害や館長からの性的強要も。表現の現場におけるハラスメントの実態とは?

アートを含む表現の現場におけるハラスメントの実態調査を行ってきた「表現の現場調査団」が24日、厚生労働省で会見を行い、その調査結果を公表した。

記者会見の様子
前へ
次へ

 近年、アートを含む様々な表現の現場におけるハラスメントが次々と明るみになるなか、初めてその実情を本格的に調査するアンケートが昨年12月から今年1月にかけウェブアンケートフォームを通じて行われ、その結果が『「表現の現場」ハラスメント白書2021』として公開された。

 調査を行ったのはアートや演劇など、表現の現場で働く人たちのハラスメントについて調査する「表現の現場調査団」。メンバーのひとりであるアートユニット「キュンチョメ」のホンマエリは、24日に行われた記者会見で「表現の現場ではハラスメントがとても多く、しかも隠され続けている。作品のためだといって性行為を強要されることもある。表現者は既存の価値観を更新してきたが、現場ではハラスメントが横行している」と現状を指摘。「表現の現場も更新していかなければいけない。ハラスメントに自覚的になり、止める目となり、目を増やすことが大事。そのための現状認識が必要であり、調査団を発足させた」と語る。

記者会見の様子。左から、津田道子、笠原恵実子、ホンマエリ、百瀬文

 今回の調査対象は、表現にかかわる活動・仕事をしている人で年齢性別は不問。1449名が回答し、うち6割が女性となった。年齢別では30代が最多で、20~40代で全体の9割を占めた。なかでも特徴的なのは職業の地位だ。回答者ではフリーランスが56パーセントと大半を占めており、その立場の弱さからハラスメントを受けやすい実態が見える。

 弁護士の笠置裕亮は、調査においては「正規雇用の比率が低く、労働法の保護を受けられない、あるいは保護が手薄な人が回答者には多い。契約解除を規制する法律もない」と制度的な問題点を指摘する。

「表現の現場」ハラスメント白書2021より

 調査では、ハラスメントの事例を様々な種類に分類し、その特徴をまとめている点も大きな特徴だ。回答者1449名のうち、「なんらかのハラスメントを受けた経験がある」と回答したのは1195名に上る。

 ハラスメントの分類としては、セクハラ、パワハラ、アカハラなどのほか、作品(テクスト)について、作者が女性であることなどを理由に、不当な仕方で評価するという「テクスチュアル・ハラスメント(テクハラ)」と、今回の調査で新たに用いられた造語でレクチャー(指導)の際に生じるハラスメントのことを指す「レクチャリング・ハラスメント(レクハラ)」の被害体験が多く集まったという。

 広島大学ハラスメント相談室教授の横山美栄子は、「回答者はそれぞれつらい経験を詳細に語ってくれた。表現の世界のハラスメント実態を明らかにする貴重な調査で多くの事例が集まった。事例分析を多様な方面から行ったことに意味がある」と語る。

「表現の現場」ハラスメント白書2021より

美術分野のハラスメント事例

 今回の調査では、アート、美術・演劇、パフォーマンス、映画、デザイン、ゲーム、マンガなど幅広いジャンルから回答を得た。そのうち、美術の分野ではどのような声が寄せられたのか。

 目立つのは、ギャラリーで客がつきまとうギャラリーストーカーや、オーナーからのハラスメントだ。

「20代で展示したとき、立ち寄ったアート好きとかいうおじさんから、しつこくデートなどの誘いを受けた」( 30代、 ⼥性、デザイナー)
参加した海外のアートフェスティバルで、レセプションで知り合った現地ミュージシャン&画家の40歳男性(⽇本⼈⼥性フェチと思われる)がストーカー化し、展⽰現場に毎⽇現れる、夜間にアトリエに来てほしいとせがまれるなどあった( 30代、⼥性、美術家)
20代の頃、発表していたギャラリーにて、ギャラリストに発言権を持つというコレクター(ギャラリーと懇意)に、作品を引き合いに脅されつつ関係を迫れられた。 以降、そのギャラリーには近づくことができなくなった(30代、⼥性、美術家)
館⻑から密室でキスを求められたり、⾝体を触られた。断ると突然態度が変わり難癖をつけて左遷させられた。(50代、⼥性、⽂化施設勤務)

 こうした事例は、ハラスメント白書で公開されているごく一部にすぎない。全文はぜひ「表現の調査団」ウェブサイトから確認してほしい。

 横山は「表現の世界は多様性に満ちた世界と思われがちだが、ジェンダー不平等への意識が低い。現在のハラスメント関連の法律では救えない被害が多い。これからさらに分野ごとの調査などを行い、被害実態を明らかにしていき、救済システムがよりよくなるように動きたい」と今後の展望を述べる。

 またアーティストの笠原恵実子は、「ハラスメントを可視化させ、被害者の現状を変えていきたい」としつつ、「表現の調査団」の活動を今後5年間継続させることを明らかにした。活動のなかで、表現の現場に従事するフリーランスの法的保護を求める法改正の要求と、ジェンダーバランスの不均衡改善のための啓蒙活動を行うとしている。

「表現の現場」ハラスメント白書2021より

美術手帖 ID

無料会員

¥0

お気に入り登録や、マイページなど便利な機能がご利用いただけます。

プレミアム会員

¥300 / 月〜

バックナンバー閲覧など有料会員限定コンテンツがお楽しみいただけます。