美術系大学における権威の濫用と閉鎖性
美術系大学の教育現場においては、指導や批評の機会がハラスメントのリスクを高める要因となっている。大学院生へのインタビューでは、実技指導の担当教員変更を申し出たことを契機に、「怒鳴られたり、理不尽なことを言われたり、施設や道具の使用を制限されたり」といった被害が起きたことが記されている。作品制作において学内の施設設備に依存せざるを得ないという表現分野特有の状況下で、施設の使用制限をかけることで間接的に学生を苦しめるという実態が浮き彫りになった。
また、美術系大学教員の事例では、学外アーティストを招いたワークショップにおいて、「企画担当の教員から、業務時間外に繰り返し連絡があり、即時の対応を求められる」といった労働問題が挙げられている。大学の相談窓口を利用した際にも、本人の同意なく加害者に情報が伝達されており、大学内の相談機関が十分に機能していない課題が指摘されている。
連鎖を断ち切り、新たな加害を生まない仕組みづくりへ

本調査が浮き彫りにしたのは、個人の資質にとどまらない業界全体の構造的な問題である。孤立化を防ぐためには「横とのつながり」を確保する試みや、信頼される相談窓口の確立が不可欠であると指摘されている。
インタビューのなかでは、「被害を受けた人を守ることは大前提として、新たな加害を生まないようにする仕組みが必要」(ファッションブランド事務所勤務)や、「私たちが受けてきた経験を、下の世代に回さず断ち切らなければいけない」(劇団員)といった、次世代に向けた切実な声が語られている。本白書は、ハラスメントが偶発的なものではなく構造的に発生することを理解し、個人の尊厳が守られる表現の現場を構築していくための具体的な制度整備と環境改善を社会全体に促している。
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