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ヴェネチア・ビエンナーレが開幕。日本館で荒川ナッシュ医が「赤ちゃん」を通して問いかけるケアと未来【3/3ページ】

「赤ちゃん」を通して未来を考える

 キュレーションを手がけた堀川は、「近年、ヴェネチア・ビエンナーレという制度そのものを見直す議論が始まっている」と語る。「多くの人は、日本館に対して『日本的』なものや、美しく精緻な工芸的作品を期待して来場します。でも、荒川ナッシュさんの作品に出会ってイメージの違いに驚くことになる。そのズレが重要だと思っています。荒川ナッシュさんは、リジッドなインスティテューションに対して、じわじわと揺さぶりをかけていくアーティストです。この展示が『日本館』という制度や、日本に対する固定的なイメージを考え直す契機になればと思っています」。

合計208体の赤ちゃん人形が展示される日本館 撮影:Uli Holz 提供:国際交流基金

 そして、展示空間のなかで来場者を見つめ返す208体の赤ちゃん人形は、未来の象徴であると同時に、現在を生きる私たち自身への問いでもある。

 堀川とともにキュレーションを担った高橋はこう語る。「『子供が未来を担う存在である』ということ自体は、普遍的な事実だと思うんです。だからこそ本展では、子供をきっかけに、生殖に関する政治性やアイデンティティ、大人たちの責任、そして私たちがどのような未来をつくろうとしているのか、といった様々な問題が提起されています。子供に向ける態度やまなざしを、赤ちゃんだけでなく、もっと様々な他者へ向けることができるのではないかと思いました」。荒川ナッシュも次のような期待を寄せている。「いま世界全体が再びナショナリズムへと傾きつつあるなかで、その状況に対して何ができるのかを、『赤ちゃん』というシンボルを通して考えようとしています」。

 国家、歴史、ディアスポラ、クィアネス、ケア──様々なテーマが交錯する本展。荒川ナッシュによる日本館は、「赤ちゃん」という存在を通して、いまを生きる私たち自身のあり方を静かに問うている。

左から堀川理沙、荒川ナッシュ医、高橋瑞木 撮影:Uli Holz 提供:国際交流基金

編集部