日本館という制度を問い直す
本展はまた、「日本館」という制度そのものを問い直す試みでもある。荒川ナッシュは福島県生まれの日系アメリカ人であり、現在は米国籍を持つ。日本国籍を持たない作家が日本館で個展形式の展示を行うのは今回が初となる。
⾼橋瑞⽊は、「日本人のディアスポラは昔から存在していましたが、その存在は十分に可視化されてこなかった」と指摘する。
「今回、荒川ナッシュさんが日本館代表に選ばれたことには大きな意味があります。同じような背景を持つアーティストはほかにも数多く存在していますし、そうした人々を排除するのではなく、その存在に目を向けることが重要です。日本の外側にいる人々との対話から、日本に住む人たちも多くを学べるはずです」。
また高橋は、「荒川ナッシュさんが親になったとき、自分の腕に赤ちゃんを抱き、『この子たちをどう育てるのか』『何を教え、どんな未来を渡していくのか』と考えるなかで、新たな責任を強く感じたことが、本展の出発点になっています」と説明する。

堀川理沙も、「ケアとレイバー(労働)」も本展の重要なテーマのひとつだと語る。来場者が赤ちゃんを抱き、日本館の階段を上り下りしながら展示を巡る行為は、次第に身体的な負荷として実感されていく。
「来場者は赤ちゃんを抱えながら、日本館の回遊性を身体的に体験し、詩を読み、また戻ってこなければならない。それはかなり身体に負担がかかるんです。荒川ナッシュさんは、ケアというものが労働と不可分であることを意識的に示していると思います」。
また堀川は、今回の展示制作にあたり、「日本をアジアのなかに相対化して見る視点」が重要だったと振り返る。
「荒川ナッシュさんはこれまで欧米の美術館やアートの文脈で紹介されることが多かったと思いますが、今回のリサーチでは、日本対アメリカという単純な構図ではなく、日本をアジアの歴史のなかで見ていくことを意識しました」。
さらに今回は、ジャルディーニで隣接する韓国館との史上初となる公式連携も実現した。互いの作品が行き来する構成や共同プログラムを通して、国家館という枠組みそのものを越境しようとする試みがなされている。



















