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「宮脇綾子の芸術 見た、切った、貼った」(東京ステーションギャラリー)レポート。領域を超越した“布絵”の豊かな芸術性【4/4ページ】

造形の展開とデザインへの志向

 宮脇の作品は、布を切り、縫い合わせることで成り立っているが、そこに紐や糸で線を加えることでさらに表現に広がりをもたらしているものが少なくない。タマネギやジャガイモの芽が伸びていく様子も楽しんだ彼女は、そうした植物の根や細い茎の繊細さをそれらで表し、さらには透明なガラスの器をも描写していく。

 写実に根差した表現は、やがてその本質を抽出し、単純化やデフォルメ、あるいは同モティーフを反復する、異なるモティーフを並べるなど、デザイン的な作品も多く生み出された。

 「7. 線の効用」「8. デザインへの志向」で、こうした宮脇の表現の幅広さを感じよう。

「7. 線の効用」展示風景より、左から《筍》(1977)、《からす瓜》(1983)、《きんめ鯛》(1979、いずれも豊田市美術館蔵)
「8. デザインへの志向」展示風景より
「8. デザインへの志向」展示風景より、《縞魚型文様集》(手前)と《木綿縞乾柿型集》は、いずれもその数1万。各所に展示される「はりえ日記」とともに何年もかけて制作した偉業は宮脇の生涯を象徴する
「8. デザインへの志向」展示風景より

 素朴な日常の食物や身近な生物たちは、いずれも繊細で絶妙なハギレの組み合わせでできている。近くでじっくり観察してほしい。あたり前のモノたちが、実に楽しげに、ユニークに、大胆に、愛らしく生命の輝きと、創作の喜びを伝えてくれる。地にしている布との対比にも注目。ひとつの作品で発見があると別の作品でも気になってくる。会場を往還して確認したい。

 作品に記される「あ」のアプリケ。「綾子の“あ”であるとともに、自然を見て『あっ』と新鮮に驚いたときの感動をひそかに縫い込んでいるつもり」という。そのすぐれた色彩感覚と「布絵」としか言いようのない、あらゆる領域を超えた豊かな創意にさらに「アッ」となること間違いなし。

展示風景より、《あんこう》(1975、豊田市美術館蔵)

編集部

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