第1部「光と色の実験」
第1部の出品作家は、ウジェーヌ・ドラクロワ、クロード・モネ、ジョルジュ・スーラ、ロベール・ドローネー、ワシリー・カンディンスキー、アンリ・マティス、モーリス・ルイス、ヘレン・フランケンサーラー、ケネス・ノーランド、アド・ラインハート、ダン・フレイヴィン、ドナルド・ジャッド、ゲルハルト・リヒター、ベルナール・フリズ、白髪一雄、田中敦子、桑山忠明、前田信明。
1部の冒頭を飾るクロード・モネをはじめとする印象派の画家たちは、物体の固有色を否定し、光によって移ろう対象の色彩を表現することによって、独立した色彩表現の可能性を追究した存在だ。
またアンリ・マティスらフォーヴの画家たちは、対象から色彩そのものを解放し、画面における色彩の調和を重視したことで知られる。またドイツで抽象絵画を探究したカンディンスキーは、色彩や形などの要素の組み合わせが鑑賞者の心を揺さぶると考え、20世紀抽象絵画の論理的な基礎をつくった。
これらの絵画は戦後アメリカのケネス・ノーランドに代表されるカラーフィールド・ペインティングや、アド・ラインハートの「タイムレス・ペインティング」などに影響を与えたことは言うまでもない。
ラインハートの一見真っ黒に見える絵画は、いくつかの四角形を組み合わせて1枚の画面を構成したもの。タイムレス・ペインティングシリーズのひとつである《抽象絵画》(1958)は、抽象絵画の到達点のひとつとされている。
ゲルハルト・リヒターはスキージによって絵具を塗り広げる手法によって、《抽象絵画(649-2)》(1987)のような大作をいくつも手がけてきた。いっぽうで、デジタル技術によって自身の作品を再解釈した「ストリップ・シリーズ」を2011年から制作しており、色と光をめぐる探究はいまなお続いている。
本展では新収蔵となったフリズの絵画3点にも注目したい。フリズは絵具同士を編み物のごとく重ねることで1つの巨大な画面を生み出すことで知られる。白い下地の効果によって画面は透明感と明るさを放ち、玉虫色を見せる。
ミニマリズムの作家として並ぶドナルド・ジャッドとダン・フレイヴィンの作品も新収蔵だ。フレイヴィンの《無題(ドナに)5a》(1971)は規格化された複数の色の蛍光灯を組み合わせたもので、光の色が混ざり、空間が不思議な色彩を帯びている。
1958年に渡米し、ジャッドたちとミニマリズムを牽引した桑山忠明による30本のアルミニウムで構成された大作《無題》(2018)もまた素材そのものが持つ色を放っており、見る角度によって様々な表情を見せてくれる。