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「記憶:リメンブランス─現代写真・映像の表現から」(東京都写真美術館)開幕レポート。写真・映像は、人々のどのような「記憶」をとらえてきたのか

写真や映像は、人々のどのような「記憶」をとらえようとしてきたのかについて考察する展示「記憶:リメンブランス─現代写真・映像の表現から」が東京都写真美術館でスタートした。会期は6月9日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、村山悟郎《千年後のドローイングのために - 人間・人工知能・人工生命》(2023) 

 写真や映像は、人々のどのような「記憶」をとらえようとしてきたのかについて考察する展示「記憶:リメンブランス─現代写真・映像の表現から」が東京都写真美術館でスタートした。会期は6月9日まで。担当学芸員は関昭郎(東京都写真美術館学芸員)

 本展は、篠山紀信中平卓馬による『決闘写真論』(1976、朝日文庫)における篠山の示唆を起点としながら、高齢化社会や人工知能(AI)のテーマまで至る、日本、ベトナム、フィンランドの注目アーティスト7組8名を紹介するもの。会場では、新作から国内未発表作までを含む約70点が展示されている。参加作家は、篠山紀信、米田知子、小田原のどか、グエン・チン・ティ、村山悟郎、マルヤ・ピリラ、Satoko Sai + Tomoko Kurahara 。

 残念ながら今年1月に逝去した篠山は、亡くなる1ヶ月前まで同館と本展に関する調整を行なっていたという。『決闘写真論』の連載では、写真とプライベートをつなぐという視点について述べられており、会場には毎年の誕生日に母親に連れられた写真館で撮影された自身のポートレート《誕生日》や《家》、3.11による痛ましい被害のなかに残る人の営みを写した《ATOKATA》といったシリーズ作品が紹介されている。その1枚1枚には、篠山が人間に向けた慈愛の眼差しも写し出されているように思える。

 記憶と歴史をテーマに撮影を続けてきた米田知子は、同館にコレクションされている作品に加えて、未発表の新作で韓国と北朝鮮のあいだにある非武装地帯(DMZ)をテーマとしたプロジェクト《(未)完成の風景》も展示している。米田は、本展の記憶というテーマに触れて「自身にとっての日本と海外での記憶の差を考えていたときに生まれたのが『Scene』シリーズ。その頃のことを思い出し、新作の制作、そして本展に臨んだ」という。

展示風景より、米田知子「サハリン島」「Scene」シリーズ
展示風景より、米田知子《(未)完成の風景 Ⅰ》、《(未)完成の風景 Ⅱ》(ともに2015 / 2023)

 当初展覧会にはテキストで参加予定であった小田原のどかは、インスタレーション作品も展示することとなった。同館コレクションのなかに存在する作者不詳に分類される作品から7点を選定し、自身の文章とともに紹介している。

 小田原は次のように語る。「いままで仕事のなかで調べたり、集めたり、展示をしたりしてきた。本展のテーマは、自分がそういうことをして何を伝えたいのか? ということを再考するきっかけになったと思う。作者不詳の作品を取り上げた理由は、それらに過去そしてまだ見ぬものと出会い直すといった可能性を感じたからだ。本展では、長崎に初の写真館をつくった上野彦馬さんを取り上げ、鑑賞者に新たな出会いを提示するとともに、筆舌につくしがたいこの世界情勢において、新たな想像力を持って物事と出会い直すことの重要性を伝えたい」。

展示風景より、小田原のどか《像の記憶と手ざわり:上野彦馬の写真、彫刻、墓、記念碑》(2024)。会場には小田原の文章が刷られた紙が積んであり、持ち帰りや誰かへ手渡すことが可能となっている

 ベトナム出身の作家グエン・チン・ティによる《パンドゥランガからの手紙》は、パリのジュ・ド・ポーム国立美術館とボルドー現代美術館での個展のために制作された35分間の映像作品だ。2009年にはベトナム初の原子力発電所がニントゥアン省に建設される計画が発表。ベトナム戦争の爪痕が残るも聖地であるこの地を同氏が取材し、国際社会に自国の現状を訴えかけた重要な作品となっている。

展示風景より、グエン・チン・ティ《パンドゥランガからの手紙》(2015)

 自己組織的なプロセスやパターンを絵画やドローイングに落とし込む手法で表現する村山悟郎は、1000枚のドローイングを1枚1枚撮影し、AIに学習させている。村山は「絵を描くこと、写真、そして本展のテーマである記憶で何が考えられるかを模索した。自身のドローイングをコンピューターに入れ直し、出力することで、新たな自分との出会いを試みるものである」とその意図を語っている。人工知能(Alife)研究のAlternative MachineやAIを使い、創造的表現をサポートしたのは、東京大学大学院教授で人工知能研究を行う池上高志。

展示風景より、村山悟郎《千年後のドローイングのために - 人間・人工知能・人工生命》(2023) 
展示風景より、村山悟郎《千年後のドローイングのために - 人間・人工知能・人工生命》(2023)

 「インナー・ランドスケープ」シリーズは、フィンランドの写真家マルヤ・ピリラと作陶ユニット Satoko Sai + Tomoko Kurahara(崔聡子+蔵原智子)によるコラボレーションプロジェクトだ。マルヤは、トゥルクの街で暮らす老人たちをテーマに、「カメラ・オブスクラ」の原理を用いて彼らを撮影。部屋のなかに外の風景を写し込むことで、日常のなかに心象風景をも写し出している。

 崔聡子と蔵原智子は、陶芸作品の内側に写真を転写することで、歴史に描かれない個人の記憶を視覚化している。このプロジェクトでは、マルヤとともに取材・撮影したトゥルクの人々の内面を、手仕事のなかに浮かび上がらせている。

展示風景より、マルヤ・ピリラ《カメラ・オブスクラ/ルース》(2011)。マルヤは「写真の奇跡とは、現在と過去の出会いにある」と語る
展示風景より、手前はSatoko Sai + Tomoko Kurahara《レーナ》(2011)

 なお、会期中には米田知子 × マルヤ・ピリラ、グエン・チン・ティによるアーティストトークのほか、担当学芸員によるギャラリー・トーク(手話通訳付き)も実施予定。詳細は公式ウェブサイトを確認してほしい。

担当学芸員の関は、2021年に開催された「新・晴れた日 篠山紀信」展も担当。その際つくったというカメラ小僧Tシャツを着て挨拶を行うとともに、今年1月4日に逝去した篠山に対し哀悼の意を表した

編集部

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