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文化庁メディア芸術祭終了の問題点と今後への提案:草原真知子

次年度の作品募集を行わないことを発表した「文化庁メディア芸術祭」。その開催中止決定までの経緯における問題点や、メディア・アート分野への影響、今後への提言などを、同祭に初期から携わってきた功労者のひとり、早稲田大学文学学術院・名誉教授の草原真知子に話を聞いた。

文=草原真知子

文化庁メディア芸術祭の企画展「AUDIBEL SENSES」(2022、表参道ヒルズ)の展示風景より、歴代受賞作品の紹介パネル

 今年8月、次年度の作品募集を行わないことを発表した「文化庁メディア芸術祭」(以下、メディア芸術祭)。メディア芸術の総合祭として着実に実績を重ね、25周年を迎えた矢先だった。

 本祭が実質的に終了することについて、1980年代前半からデジタルアートの企画展示に関わり、メディア芸術祭には初期の頃から審査委員、アート部門主査など様々なかたちで関わってきた早稲田大学文学学術院名誉教授の草原真知子に寄稿をしてもらった。

 草原は教員として情報科学芸術大学院大学(IAMAS)やカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、早稲田大学で接した学生や卒業生が入選・受賞することも多く、彼らの喜びやその後の活躍を自分のことのように感じてきた。昨年には第24回メディア芸術祭で功労賞を受賞したほか、第25回の運営委員として審査会にオブザーバーとして出席し、総評を執筆している。

 メディア芸術祭終了についての問題点

 メディア芸術祭を終了するという突然の発表は、とくに若手アーティストたちに大きな衝撃を与えた。今回の文化庁の決定には2つの問題点がある。ひとつは公募展という現在の形態の廃止、もうひとつはその決定プロセスで、理由も今後の見通しも示されないままの突然の発表には違和感を感じた人が大半だろう。

 じつは第25回メディア芸術祭の審査を担当した関係者には5月から7月にかけて個別にヒアリングが行われ、そこで文化庁の案が示されていたのだが、ヒアリングの内容だけでなく文化庁からの連絡そのものが機密に指定されていたため、メディア芸術祭終了という方向性がすでに決まっていることは一般にはまったく伝わっていなかったはずだ。後に文化庁とのやりとりでわかったのは、メールアドレスも個人情報だという理由で年初から文化庁からのほぼすべてのメールに「機密性情報」というヘッダが自動的についていること、また運営委員の任務は第25回公募展に限定されているため来年度の企画に関わる立場ではなく、来年度に運営委員を任命するかどうかは決まっていないということだった。つまりメディア芸術祭終了が突然発表されるまでの過程で計画がオープンにされ議論される場はなく、個別ヒアリングという形式では関係者間の意見の共有も叶わなかった。ちなみに今回の経緯はすでに機密ではなく公開できることは文化庁に確認がとれている。

1度目のミーティング

 私のところには5月12日付で突然「[機密性2情報][文化庁]意見交換・ご訪問に関しまして」という表題で、「今後の文化施策に関し、草原様と意見交換をさせていただきたく」、急なことなので自宅を訪問したい、自宅が難しければ職場でも、という旨を記したメールが来た。内容が不明なので問い合わせると「現在弊庁で文化施策についての基本計画見直しを進めており、その中で、弊庁事業にご協力いただいている皆様と意見交換をさせていただきたい」という。ほかの2名の運営委員とも予定調整中で「別担当者が別事業の有識者の方にも、意見交換でお話を伺う予定」だという回答だったが、別事業というのが何なのかは聞き損ねた。

 自宅訪問というのは密室っぽくて嫌だったので、5月27日に勤務先の会議室で文化庁の担当者4名と会い、部外秘という数枚の資料を渡されて今後の方針の説明を受けた。資料は3月末に開かれた文化審議会文化経済部会アート振興ワーキンググループ報告書の抜粋で、これからはアーカイヴの充実と日本発のコンテンツの海外発信を中心にすること、東アジア圏との交流を深めることなどが書かれていた。そして、この資料には書かれていないが「公募展はもうやらない」という話に驚愕した。

 アートフェスティバルが多数存在する状況なので、文化庁がやる必要はないという。それでは展示はもうやらないのか聞いた。25周年ということでなんらかの企画展は考えている、その後はほかの公募展などで出た作品から選んで、国内の良い作品とアジア近隣国の作品を中心にするかたちで展示を行うことを考えている、との返答だった。これについて、公募展であること、国際展であることの意義を述べて1時間半にわたって激論し、中止ではなくアップデートというかたちで対応すべきだと論じたが、文化庁はすでに大筋で方針を固めているという印象を受けた。

 伝えた意見としては、主としてアート部門とエンターテインメント部門にまたがるメディア・アート作品について、いままで企業や地方自治体が開催してアーティストを世に出した重要な公募展が短期間で終了した例をいくつも見ていること、この公募展がなくなればメディア・アーティストたちはアルス・エレクトロニカ(編集部注:オーストリア・リンツで開催されるメディア・アートの世界的祭典)に応募するしか行き場がないこと、美大の学生には卒業制作展という機会があるがメディア・アーティストには社会人が多く、彼らにとってメディア芸術祭がどれほど重要であるかを力説。しかし、文化庁の反応は硬かった。この後関係者にヒアリングをするというので、その結果に期待するしかないと思った。

 最後に、突然公募展を終了するのは、これを目指して作品をつくってきた人たちにとっても指導教員にとっても非常に困惑する事態なので、少なくとも1年間の余裕を持って計画を伝えて議論を重ねるべきだし、規模を縮小してでも来年も開催していただきたい、と述べた。

2度目のミーティング

 再度のミーティングの打診を受けたのはメディア芸術祭の概要が発表された直後、芸術祭終了が発表される前だった。決定の報告というかたちで文化庁担当者4人と再び議論したが、もう変更の余地は何もないようだった。ヒアリングの結果はどうだったのか冒頭で尋ねたところ、賛成と反対はほぼ半々という返答で、私の周囲では反対意見が圧倒的に多かったのでかなり意外に感じた。しかし半々だったとすれば、やはり反対意見を述べたという運営委員でアニメーション作家の古川タクや私を含めた半数の意見は却下されたことになる。そのとき、ヒアリングは今回の公募展の審査委員と選考委員、それに運営委員の計50名に対して行ったと聞いた。審査委員・選考委員にはアーティストや教員も含まれているとはいえ、もし公募展の審査がやりやすかったか、何か問題を感じたかと問われれば、問題なしと答える割合は少なかっただろう。

 公募展の審査には審査基準やカテゴリー分けなど、毎回問題は出てくる。メディア芸術祭でも初期には審査会とは別に審査委員と文化庁担当者が意見交換する機会が設けられ、企画展の発案や次年度の方針などについて自由な議論があった。当初インタラクティブとノンインタラクティブに分けられていた部門が変わったのも審査委員からの提言による。アルス・エレクトロニカでもカテゴリーの柔軟な変更や年毎のテーマによる企画展を行うなどの方法で時代や技術の変化に対応している、ということも最初のヒアリングで述べたはずだった。

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