テクノロジーの進化と、解決しない「差別の構造」
30年の時を経て、エイズ治療の医学は飛躍的に進歩した。かつては大量の薬を数時間おきに服用しなければならなかったが、現在は他者に感染しないウイルス量「U=U(検出限界値未満)」を維持することが可能となり、治療を続ければ性交渉をしても相手に感染しない時代になっている。
しかし、ブブと山中が共通して感じているのは、医療がこれほど進歩したいっぽうで、社会における差別の構造や、人々の意識がまったく進歩していない、という事実だ。ブブは「むしろ逆行している、あるいは複雑化して悪質になっている部分もある」と指摘する。作品内で繰り返し登場する「沈黙の共謀(Conspiracy of Silence)」というフレーズが示すように、現代社会において「不都合なことを言わない、沈黙する」という空気は、むしろ強まっているのではないか。ふたりが指摘する本作の批評性は、現代の観客にも重く突き刺さる。
ブブ、山中はともに現在もそれぞれ旺盛な活動を続けている。山中はまもなくソロ・アルバムのマスターアップを控えており、ブブは美術家・嶋田美子とのコラボレーションおよびそれぞれのソロ作品を、第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の企画展「In Minor Keys」(〜11月22日)に出展中である。山中とブブは「若手アーティストの支援だけでなく、60代を迎えた『シニア・アーティスト』の活動やアーカイブを継続的にサポートしていく社会的なシステムが、これからの日本には必要だ」と語り、トークを締めくくった。
30年前、ダムタイプが《S/N》という作品に込めたシグナルとノイズは、いまなおかたちを変え、現代社会に必要な抵抗の響きを、私たちの耳に届け続けている。



















