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揺らぐ世界のなかで開幕した「アート・バーゼル香港2026」。アジアに向かう視線と香港市場の現在地【3/3ページ】

香港のハブ機能をいかに活かしていくか

 そのいっぽうで、中小規模のギャラリーや日本勢からは、やや異なる現場感覚も聞かれる。Yoshiaki Inoue Galleryは、吉原治良吉原通雄元永定正らの作品を紹介。ディレクターの井上彰人は、「昨年と比べると来場者数はやや少ない印象」を指摘しつつも、「作品そのものにしっかりと関心を寄せる来場者が多く、コレクターの目利きや全体的なクオリティはむしろ向上している」と語る。

会場風景より、Yoshiaki Inoue Galleryのブース

 また、今年初めてメインセクター「ギャラリーズ」への出展を果たしたYutaka Kikutake Galleryは、毛利悠子やトレヴァー・ヤン、片山真理などによるグループ展を展開。代表の菊竹寛は、「香港では最終日まで作品が売れる傾向がある」としたうえで、「中東方面への移動が難しく、ヨーロッパも航空券の高騰が続くなかで、『今回の香港で何か作品を購入できれば』と考えるコレクターが多い」と指摘する。地政学的状況や移動コストの上昇が、香港への購買需要を押し上げている可能性を示唆した。

会場風景より、Yutaka Kikutake Galleryのブース

 近年、アート・バーゼルによるアートウィーク東京の支援を背景に、香港における日本のギャラリーやコレクターの存在感も高まりつつある。菊竹はその波及効果について、「異なる層のコレクターが東京を訪れ、多様な作品に触れる機会が生まれることは重要だ。その結果、日本の視点が広がり、アジアとの接点が増えていくという意味でも意義は大きい」と強調する。

 現在の世界情勢を踏まえ、アンジェル・シヤン=ルーはアート・バーゼル香港のビジョンについて、「情勢に応じて方針を変え続けるだけでは、持続的なアート・エコシステムを構築することは難しい」とし、「エコシステムの育成に焦点を当て、長期的なビジョンのもとで基盤を築いていく必要がある」と語る。

会場風景より、「エンカウンターズ」セクターの様子

 この点について、今年2月に大館の副館長兼アート部門統括に就任した、元UCCA現代アートセンター館長のフィリップ・ティナリも、香港の現状をより制度的な観点から捉える。「香港における文化インフラの整備は、すでに一定の完成段階に達している。現在問われているのは、その基盤のうえでアート・エコシステムをいかに発展させていくかという点だ」とし、「10年前と比べて香港は大きく成熟し、市場だけでなく文化的生産を支えるリソースも整ってきた。今後は、制度や機関のエコシステムをいかに構築し、その有効性を高めていくか、そしてローカルと国際双方の観客にどのように応えていくかが重要になる」と指摘する。

 地政学的リスクと市場環境の変動が交錯するなかで開催された本年のアート・バーゼル香港。相対的な安定性を背景にアジアへと関心と資金が再び引き寄せられつつある現在、香港がいかに制度・市場・文化の各レベルでそのハブ機能を持続的に更新していくのか。その動向は、今後のグローバルな美術市場の再編を読み解くうえで、重要な指標となり続けるだろう。

会場風景より、「エンカウンターズ」セクターの様子

編集部