2023.6.12

制作者として、教師として、美術史に残るその軌跡。「ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室」がDIC川村記念美術館で開催

画家、デザイナー、そして美術教師として知られるジョセフ・アルバース(1888〜1976)を特集する展覧会「ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室」が千葉・佐倉のDIC川村記念美術館で開催される。

ジョセフ・アルバース 破片の入ったグリッド絵画 1921頃 ジョセフ&アニ・アルバース財団 © The Josef and Anni Albers Foundation / JASPAR, Tokyo, 2023 G3217 Photo: Tim Nighswander/Imaging4Art
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 千葉・佐倉のDIC川村記念美術館で、画家、デザイナー、そして美術教師として知られるジョセフ・アルバース(1888〜1976)を特集する展覧会「ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室」が開催される。会期は7月29日〜11月5日。

 ドイツで生まれたアルバースは、造形学校のバウハウスで学び、のちに教師となって基礎教育を担当した。同校の閉鎖後は渡米し、ブラックマウンテン・カレッジや、イェール大学に勤務。戦後アメリカの重要な芸術家たちを育てた。アルバースは授業の目的を「目を開くこと」だと述べており、その授業ではただ知識を教えるのではなく、学生に課題を与え、手を動かして考えることをうながした。自ら答えを探究させることで、色彩や素材のもつ新しい可能性を発見させようとしたのだという。

イェール大学で色彩の授業を行うアルバースと学生 1952 撮影者不詳 ジョセフ&アニ・アルバース財団 Courtesy of the Josef and Anni Albers Foundation

 アルバース自身もまた生涯にわたり探究を続け、バウハウス時代のガラス作品から、家具や食器などのデザイン、絵画シリーズ「正方形讃歌」に至る多様な作品群を生み出している。本展ではこうしたアルバースの作品を、その授業をとらえた写真や映像、学生による作品とともに紹介。制作者/教師という両側面からアルバースに迫る、日本初の回顧展となる。

ジョセフ・アルバース スタッキング・テーブル 1927頃 ジョセフ&アニ・アルバース財団 © The Josef and Anni Albers Foundation / JASPAR, Tokyo, 2023 G3217 Photo: Tim Nighswander/Imaging4Art

 展覧会は4章構成。第1章「バウハウス―素材の経済性(1920–1933)」では、アルバースが当初は学生として、のちに教師として、閉校時まで携わるドイツのヴァイマールの「バウハウス」に焦点を当てる。教師としてアルバースが主に担当したのは、専門教育に先立つ造形のための基礎演習だった。現在ではとりわけ色彩への取り組みで知られるアルバースだが、授業で一貫して重視したのは、素材の性質を把握し効率よく扱う方法を習得することだったという。また、バウハウスではガラス画工房や家具工房でも教え、家具、食器などのデザインを手掛けるほか、ガラス作品も制作した。こうしたアルバースのバウハウス時代を、作品や資料によって紹介する。

作者不詳[バウハウスの学生] 紙による素材演習 制作年不詳(2023再制作) ミサワホーム株式会社

 第2章「ブラックマウンテン・カレッジ―芸術と生(1933–1949)」では、バウハウスが閉校した後、アルバースが招聘を受けたアメリカのブラックマウンテン・カレッジの時代を展観。リベラルアーツ教育を目指した同校では、芸術がカリキュラムの中心に位置づけられていたという。この新しい環境でアルバースは、自然物を素材として課題に用いるなど、より先進的な課題を授業に取り入れていった。この地で過ごした約15年間は、抽象絵画や版画にも取り組み、後の展開につながる重要な時期となる。

ジョセフ・アルバース リーフ・スタディ I  1940頃 ジョセフ&アニ・アルバース財団 © The Josef and Anni Albers Foundation / JASPAR, Tokyo, 2023 G3217 Photo: Tim Nighswander/Imaging4Art
作者不詳[ブラックマウンテン・カレッジの学生]  マチエール(黄色い四角が塗られた石と紙) 1940年代頃 ジョセフ&アニ・アルバース財団

 第3章「イェール大学以後―色彩の探究(1950–)」では、1950年にアルバースがイェール大学に着任してからの足跡を追う。この頃から色彩への取り組みで知られるようになっていったアルバース。担当する色彩課程では、さまざまな色の錯覚をつくり出すことが求められた。学生たちは試行錯誤しながら課題と向き合うことで色彩をより正確に見て、選び出す経験を積んだ。

ジョセフ・アルバース 3つの茶色+黄土色 1948–57 ジョセフ&アニ・アルバース財団 © The Josef and Anni Albers Foundation / JASPAR, Tokyo, 2023 G3217 Photo: Tim Nighswander/Imaging4Art
ジョセフ・アルバース プリズムのような II 1936 ジョセフ&アニ・アルバース財団 © The Josef and Anni Albers Foundation / JASPAR, Tokyo, 2023 G3217 Photo: Tim Nighswander/Imaging4Art

 いっぽう、20年以上にわたって続けることとなる絵画シリーズ「正方形讃歌」もこの時期に始まった。正方形による決まったフォーマットに色彩を配置し、隣接する色同士がさまざまな効果を生み出す同シリーズは、色彩を移ろいやすいものと考え、そのはたらきを動的にとらえようとするアルバースの探究が反映されていると言える。このシリーズとともに、主著『色彩の相互作用』(邦題:『配色の設計』)にも使われた学生の作品を展示することで、その色彩への取り組みを再考する。

ジョセフ・アルバース 正方形讃歌のための習作:針葉樹の中心 1961 公益財団法人アルカンシエール美術財団 / 原美術館コレクション © The Josef and Anni Albers Foundation / JASPAR, Tokyo, 2023 G3217
ジョセフ・アルバース 正方形讃歌 1952–54 DIC川村記念美術館 © The Josef and Anni Albers Foundation / JASPAR, Tokyo, 2023 G3217

 最後となる第4章「版画集〈フォーミュレーション:アーティキュレーション〉(1972)」では、1972年に出版された版画集『フォーミュレーション:アーティキュレーション』を取り上げる。過去に制作した作品をもとにした、集大成ともいえるこの版画集から、15点を紹介。各作品にはアルバース自身のテキストが付されており、それらをイメージとともに読むことで、その造形に対する思考や色彩への探求を追体験することを試みる。

作者不詳[イェール大学の学生] 色彩演習 1958–60頃 ジョセフ&アニ・アルバース財団 Courtesy of the Josef and Anni Albers Foundation

 なお、本展ではアルバースの課題に挑戦できる常設のワークショップ・スペースも設置予定だ。実際に手を動かし挑戦してみることで、色の不思議さや楽しさを再発見することができそうだ。