伴走しながら、社会に届けるコラボレーション
加藤 SICFの開催は年に1回なのですが、スパイラルにとっては単発のイベントではないんです。参加や受賞がゴールではなく、「その先」を見据える。作家としての将来的なキャリア形成を視野に入れながら、どのようにステップアップにつながる機会を設けていくかを重視しています。作家として活動を継続するには発表と報酬、ふたつの「機会」が欠かせないからです。
だからこそ、SICFの評価基準には、作品の新規性や独創性、表現力、技術力のほか、今後のパートナーシップを築ける将来性・事業性も重要なポイントに挙げています。現在の作品の完成度だけでなく、柔軟な思考やコミュニケーション能力といった今後の発展性、伸び代を大事にしているんです。また、審査員の皆さんは各分野のプロフェッショナルですから、作家本人が気づいていない作品の魅力や市場価値以外の重要性を言語化・可視化してくれます。審査を通じて、多角的な視点で今後のキャリアのヒントを提供できればと考えています。
受賞すると1年後には、顕彰としてグランプリはスパイラルで個展、受賞者はグループ展に参加の機会を得られます。その際、いま、ここで、この作家にしかできないことに挑戦いただこうと、空間や文脈、方向性について相談しながら一緒に展覧会をつくっていきます。

また、受賞者はもとより、SICFに参加したすべての作家を対象に、様々な事業へ積極的に登用しています。スパイラルは展覧会だけではなく、ショップで販売する機会もありますし、自社が運営するネイルサロンやカフェの店舗にもアートを取り入れています。また自治体や民間企業との協働によるアートフェスティバル、まちづくり、商業施設のディスプレイなど多彩な案件がありますので、その時々でベストな作家をコーディネートするんです。作家にとって意外だと思うお声がけもあるかもしれませんが、我々がアドバイスしながら伴走しますので、新しい領域に活動を拡張するきっかけとして、ひとりでは尻込みするような案件にも安心してチャレンジしていただけたらと思います。


京森 私は地元・愛媛のアートプロジェクト「道後アート2023」にお声がけいただき、老舗旅館の大和屋本店にある能舞台「千寿殿」に作品を展示しました。あわせて、能楽『胡蝶の夢』を上演する機会にも恵まれました。展示作品は演目に合ったものを能楽観世流シテ方の橋本忠樹さんと相談して選んでいます。さらに、共同ワークショップではこれまで接点のなかった伝統芸能の担い手ともお話しして、初めて能面をつけさせていただく体験もしました。装着した際の視界の狭さには驚きましたね。ほかにもアートイベントや展示のお話をもらって、2024年にはスパイラルで実施されたSpiral Xmas Market 2024にも参加しました。
加藤 クライアントからご依頼に基づいて推進するコミッションワークでは、新作を制作いただくこともあります。アートとは異なる業界のクライアントも多く、アーティストとのやりとりが初めてということもあります。作家は下請けではなく、パートナーですから、作家性や作品性をきちんと担保できるよう、クライアントとアーティスト双方の意図や文脈を言語化したうえで、通訳し、お互いにとって良い結果が生まれるようにチューニングに努めています。
また、ショップで販売する際にも、コンセプトや素材の魅力など、アイテムの奥に広がるストーリーをお客様に説明することを心がけています。つくり手の思いを届けるのは、キュレーターだけでなく、スパイラルのスタッフ全員の仕事なんです。

haruna 例えば、青山のスパイラルでイベントを開催するときは毎日在廊して自らお客様に説明しますが、大阪や福岡のスパイラルで開催するときは、スタッフの方に自分の作品について理解してもらったうえで接客していただきます。必ず一度は自分で現地のお店に足を運び、それが難しい場合はオンラインで、事前に作品のコンセプトや機能・用途、お客様に伝えてほしいことをご説明しています。
「スパイラルでは良い作家を扱っている」と認識されていることもあり、アートやデザインを自分の生活に取り入れたいお客様やアート関係者が多く訪れます。スパイラルでの継続的な展示販売のおかげで、ファンの方々やほかのギャラリーでの展示の機会を得ることができました。
加藤 どうしたらアートシーンの生態系、持続可能な環境をつくれるのか。私たちは資金援助というスポンサーのような立場ではなく、アーティストと長期的なパートナーシップを築くことで貢献したいと考えています。SICFの受賞者に限らず参加者とコラボレーションをするのも、様々なプロジェクトに合った、幅広いジャンルの作家に活躍の機会を提供するためです。
haruna 自分の作品性と関連のある企業やブランドとつながれるのも、作家としては嬉しいですね。福岡では、スパイラルの親会社であるワコールのインナーブランド「une nana cool(ウンナナクール)」とスパイラルの共同ポップアップイベント(2026年4月8日~5月6日)で展示をさせていただきました。
京森 今後もコラボレーションさせていただく機会があれば、様々な場所での展示に挑戦したいです。いっぽうで、自身はデザインからアートの世界に入ったこともあり、デザインとアートを分けて考えたいという理由から、作品の商品化については慎重です。将来的には、アートの幅をより拡げていきたい時期がくるかもしれません。
みょうじ 私はグランプリ展のほかに、Spiral Art Gallery(名古屋松坂屋)で個展を開催しました。ギャラリーのようなホワイトキューブとは異なる、ファッションフロアだからこそ届けられる意味のある作品を、と考えました。




















