脚本家・吉田恵里香が見た草間彌生「INFINITY - SELECTED WORKS FROM THE COLLECTION」(エスパス ルイ・ヴィトン大阪)。草間彌生の“無限”の世界の魅力とは

草間彌生「INFINITY - SELECTED WORKS FROM THE COLLECTION」展が開かれているエスパ
ス ルイ・ヴィトン大阪を、NHK連続テレビ小説『虎に翼』やドラマ『恋せぬふたり』などで知
られる脚本家・小説家の吉田恵里香が訪問。稀代のストーリーメーカーの目に、草間彌生作品
はどう映ったのか。

取材・文=山内宏泰 撮影=麥生田兵吾

草間彌生 無限の鏡の間―ファルスの原野(または フロアーショー) 1965/2013 詰めもの入り縫製、布、木製パネル、鏡 250×455×455cm Courtesy of the artist and Fondation Louis Vuitton, Paris Photo by Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton

草間本人と作品は不可分

 エスパス ルイ・ヴィトンは、パリにある文化複合施設、フォンダシオン ルイ・ヴィトンの近現代アートコレクションを紹介する場として、世界6ヶ所に設けられている。大阪・心斎橋のエスパス ルイ・ヴィトン大阪で開催されている草間彌生「INFINITY - SELECTED WORKS FROM THE COLLECTION」は、同グループのコレクションから厳選した草間彌生作品で構成されている。会場には絵画8点、インスタレーション1点とインタビュー映像が並んだ。

 1929年生まれの草間彌生は、96歳となった現在も精力的に創作を続けている。絵を描き始めたのは、小さい頃悩まされていた幻覚症状から逃れるためだった。家族に反対されながらアーティストの道を志し、20代後半でニューヨークへ渡ってからはアンディ・ウォーホルらと交流しながら制作に没頭。帰国後に国内での評価が高まり、大規模な展覧会が多数開かれるようになって現在に至る。その草間の人生について、吉田は次のように語った。「私は気になる人がいると、ついあれこれ調べ尽くしてしまう習性があります。草間彌生さんもそのおひとりで、半生をたどってみたことがあるのですが、知れば知るほど惹かれますね。戦前・戦後の法曹界に生きた女性を主人公としたNHK連続テレビ小説『虎に翼』(2024)の脚本を書いたとき、昭和史を詳しく紐解いたことがありました。その経験がベースになっていたので、草間さんの活動を調べたときも、生き抜いてこられた時代の雰囲気を、まざまざと想像することができました」。

 展示された最初の作品《無限の網(DHPP)》と次の《ドッツ》は、それぞれ2010年と1990年に描かれているが、シリーズとしてはどちらも60年代から続いているものだ。網状の形態またはドットが、キャンバスいっぱいに描かれ、それらが無限に広がっていくような感覚に陥る。吉田は草間作品の強度について次のように評した。「小さい頃から見えていた幻覚と向き合い、描き続けてきたシリーズなのですね。草間さんはいつも、自身の存在と作品が不可分なものとしてあるように思えます。作品が生まれる必然性みたいなものが確かにある。そこから作品の強さや吸引力が生じているように感じられます」。同じ壁面に掛けられている《無題(足)》(1964)は、草間作品のモチーフとしては珍しく、身体の一部が描かれている。「なぜか左足ばかりを描いていますね。ひょっとすると、前に投げ出したご自身の足を、見ながら写したものなのでしょうか」。

草間彌生 ドッツ 1990 キャンバスにアクリル絵具 52.7×45.7cm Courtesy of the artist and Fondation Louis Vuitton, Paris © YAYOI KUSAMA Photo © Primae / Louis Bourjac
草間彌生 無題(足) 1964 紙にインク、グラファイト 71.1×55.8cm © YAYOI KUSAMA Photo by
Louis Vuitton Malletier – Stéphane Muratet Louis Vuitton Collection 2008

編集部