世界最大級のアートフェア「アート・バーゼル」とスイス最大の銀行「UBS」が、2018年の世界美術品市場を分析するレポート「The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2019」を公表した。筆者は、文化経済学者のクレア・マカンドリュー博士。
昨年、世界の美術品市場は6パーセント成長し、市場規模は推計674億ドル(約7兆5000億円)に達したという。この10年間で2014年(682億ドル)に次ぐ2番目の数字であり、2008年と比べて9パーセント増加している。
市場トップ3はアメリカ、イギリス、中国で、3ヶ国で総売上高の84パーセントを占めている。
アメリカは世界最大の美術品市場としての規模を拡大しており、2パーセント増で44パーセントの推定市場シェアを持つ。イギリスは21パーセントの市場シェアで、中国を抜いて美術品市場2番目の地位を取り戻した。いっぽう中国は2パーセント減少しており、19パーセントのシェアで世界3位となった。
ギャラリーでの売上高は、前年比7パーセント増の359億ドルと推定されているが、ギャラリー間の業績は異なる。売上高が50万ドル以下のギャラリーは2018年の売上が平均10パーセント減少しているが、50万ドル以上のギャラリーはすべて増加。売上高が25万ドル以下のギャラリーは、売上が18パーセント減少し、もっとも大幅な減少となっている。いっぽうで、売上高が1000万〜5000万ドルのギャラリーは、17パーセント増加している。
アートフェアでの総売上高は前年比6パーセント増の165億ドルに達すると推定されている。国際的なギャラリーがフェアでの売上高が総額に占める割合は、2010年の30パーセント未満から2018の46パーセントに増加。2016年と17年のレポートでは、ギャラリーの年間フェア参加回数は5回だったが、2018年は4回となっている。また、ギャラリーがアートフェアに出展する支出は、前年比5パーセント増加で48億ドルと推定されている。
パブリックオークションでのファインアートやデコラティブアート、骨董品の売上高は291億ドルとなり、前年比3パーセント増加。アメリカでのオークション売上高は、世界の主要な美術品市場でもっとも成長が著しく、18パーセント増の118億ドルとなった。イギリスは前年比15パーセント増の53億ドルであり、中国は9パーセント減の85億ドルとなった。
また今年のレポートでは、美術品市場におけるジェンダーの格差に注目した「Artist Representation and Gender Issues(ギャラリー所属のアーティストとジェンダーの課題)」という章が新たに設立されている。これは近年、アート界におけるジェンダーの不均衡に関する議論の高まりが示されていることの現れだろう。
世界の展覧会で紹介される女性アーティストの割合は2000年の25パーセントから18年の33パーセントへと増加しているが、ギャラリーに所属するアーティストで、女性は36パーセントであり、売上高の平均32パーセントにとどまる。またオークションでは、女性アーティストによる作品の平均価格は、男性アーティストの約50パーセントしかないという。
そのほか、オンライン美術品市場は、昨年と比べて11パーセント増で60億ドルという過去最高額に達した。そのうち、52パーセントが新規購入者であり、前年に対して7パーセント増加となっている。
これまでアメリカのコレクターに対する調査では、回答者の大多数は50歳以上だったが、シンガポールと香港の調査では、46パーセントと39パーセントのコレクターがミレニアル世代であることがわかった。また、シンガポールと香港のコレクターの92〜97パーセントがアートフェアで作品を購入した経験があり、日本とイギリスではその数字は68パーセントと72パーセントとなった。
なお、今月一般社団法人アート東京が発表した「日本のアート産業に関する市場調査2018」によると、日本の2018年「アート産業市場規模」は推計3434億円であり、美術品市場は2460億円だ。