一本のバナナを灰色のスコッチテープで壁に貼り付けた(だけのように見える)作品《Comedian》(2019)。これは、大衆文化を風刺し、社会や権力、権威について皮肉で超現実的な彫刻を発表することで知られているアーティスト、マウリツィオ・カテランがアメリカ最大級のアートフェア「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ」で今年発表したものだ。
同作は、カテランがアートフェアで15年ぶりに発表した作品で、ふたつのエディションが12万ドル(約1300万円)の価格で個人コレクターによって購入され、3つ目のエディションは、15万ドル(約1600万円)で美術館が購入予約をしていた。
しかし、フェアの閉幕を目前に、ニューヨークを拠点に活動するアーティスト、デビッド・ダトゥナがそのバナナを壁から剥がし、ブース内で食べるという“事件”が発生。大きな話題を集めた。
この一件で一躍有名になったカテランの《Comedian》。Instagramでは、これをパロディにした「#cattelanbanana」が誕生し、別の盛り上がりを見せている。
投稿では、ルーヴル美術館の《モナ・リザ》を《Comedian》に置き換えたものや、ルネ・マグリットの《人の子》(1964)の青リンゴをバナナにしたものなど、多数のパロディが登場。171万ものフォロワーを持つ猫のアカウント「Hosico Cat」も参戦するなど、フェア終了後も話題を集めている。
マーケットを皮肉るような作品が、このようなかたちでSNSで拡散され続けていく様子は、カテランの狙い通りと言えるかもしれない。