今年5月に逝去したプリツカー賞の受賞建築家、イオ・ミン・ペイとその妻アイリーン・ルーのアート・コレクションが、今秋、クリスティーズのオークションに登場する。
このコレクションには、ふたりが72年の結婚生活のあいだに収集した絵画、ドローイング、彫刻からなっており、そのなかにはバーネット・ニューマンやジャン・デュビュッフェ、ザオ・ウーキー、フランツ・クライン、張大千、ウィレム・デ・クーニング、イサム・ノグチなど、ペイ夫婦と長年の関係を持った、東洋と西洋のアーティストの友人による作品が含まれている。
これらの作品が、クリスティーズがニューヨーク、香港、パリで開催する印象派と近代美術、戦後と現代美術、20世紀のアジア美術、中国絵画などのセールに登場。予想落札価格の総額は、2500万ドル以上と推定される。
ペイ夫婦は、生涯にわたり、アーティスト、建築家、知識人のコミュニティを形成していた。その娘のリアン・ペイは、「私の両親のコレクションは、彼らがどのように生きてきたかを、個人的に反映しています」と語っている。「国を問わず、彼らにはつねに友人がいたようです。芸術家、建築家、画廊家、博物館の館長などが多く、彼らを歓迎していました。相互の尊敬、思いやり、友情の深い感情がつねにありました」。
イオ・ミン・ペイと妻アイリーン・ルーは、中国の名門の出だ。1942年、マサチューセッツ工科大学の建築学科を卒業し、建築家としてのキャリアを始めたイオ・ミン・ペイは、ウェルズリー大学を卒業したアイリーンと結婚。65年、自身の建築設計事務所「I・M・ペイ&パートナーズ」を設立し、辞世までにルーヴル美術館のガラスピラミッド(パリ、1989)、中国銀行香港支店ビル(香港、1990)、MIHO MUSEUM(滋賀、1997)など建築の設計を手掛けてきた。
「偉大なアーティストには、偉大なクライアントが必要だ」と話したイオ・ミン・ペイ。ふたりはこのような哲学を持ち、ジャン・デュビュッフェ、ジャック・リプシッツなどのスタジオを訪問し、直接作品を購入した。
クリスティーズ・戦後と現代美術部門の部長であるジョアンナ・フロームは今回のセールに関し、「彼らのコレクションは、ふたりのセルフデザインの家の重要な部分でした。それは、20世紀のトップアーティストとイオ・ミン・ペイの審美眼との対話を物語っています」とコメントしている。
ハイライトとなるのは、ジャン・デュビュッフェの《La Brouette》(1964、予想落札価格38〜60万ドル)、バーネット・ニューマンの《Untitled 4》(1950、予想落札価格約800万ドル)と《Untitled 5》(1950、予想落札価格約500万ドル)、ザオ・ウーキーの《27.3.70》(1970、予想落札価格484〜611万ドル)など。これらの作品は、オークションの前、パリ、香港、ロサンゼルス、ニューヨークで巡回展示される。