「下呂 Art Discovery 2026」開幕レポート。「日本最深部」で展開される新たな芸術祭の見どころとは?【3/3ページ】

小坂エリア

 御嶽山の麓に位置する「小坂エリア」の会場は、築70年を超える旧湯屋小学校だ。ここでは本芸術祭の目玉企画のひとつであるアートプロジェクト「みんなの学校」が展開されている。少子化による廃校の増加や教育現場の課題を背景にスタートした本プロジェクトは、「こんな学校があったらいいな」というアイディアを一般公募し実現するもの。全国から集まった250件以上の応募のなかには、アーティストや建築家のみならず、ほか地域に住む中高生や、まちづくり団体、旧湯屋小学校の卒業生などによるプランが含まれている。

旧湯屋小学校の外観

 2012年に児童数38名で閉校し、一時は解体寸前だった同校。総ヒノキ造りの美しい木造校舎は、新たな学びと創造の場として再び活用されることとなった。校舎に一歩足を踏み入れると、かつての「学校」という日常の場が非日常のアート空間へと変化していることに気づかされる。

ジョンペット・クスウィダナント《繰り返す、記憶する》(2026)

 体育館では、インドネシア出身のアーティスト、ジョンペット・クスウィダナントによる《繰り返す、記憶する》(2026)が展開。同校最後の卒業生数と同じ38体の人型オブジェや鼓笛隊の制服、楽器の演奏、そして『ふるさと』をベースにした歌声によって、架空の卒業式の情景が構築されている。

沼田侑香《残像のリプレイ》(2026)

 沼田侑香の《残像のリプレイ》(2026)は、2階の教室で展開されている。テグスとビーズを用いた点描手法により、かつてこの場所で過ごした子供たちの姿を立体化。モデルとなったのは近隣の小坂小学校の児童10名だ。接近するとビーズの集合体だが、距離を置くと子供たちの姿が鮮明に立ち現れる。

マヤ・シェン《漂流のための装置》(2026)

 マヤ・シェン(MAYA SHEN)の《漂流のための装置》(2026)は、天井から1脚の椅子を宙吊りにしたインスタレーションだ。通常、生徒を特定の場所に固定する「学校の椅子」を浮遊させることで、視覚的・身体的な解放を試みる(実際に着席も可能)。校舎に響くチャイムの音が、学校というシステムの規範を想起させ、鑑賞者の固定観念を揺さぶる体験をつくり出している。

高橋匡太《雲の故郷へ》(2026)

 ほかにも、「時間や記憶」をテーマに理科室の実験器具や砂時計を用いて作品を制作する長澤伸穂、階段の吹き抜け空間に雲型のバルーンを配した高橋匡太、校庭に校舎と対峙する巨大な鏡を設置した豊福亮など、校舎全体に複数の作家による多様な作品群が展開されている。さらに会期中には、アーティストや研究者、経営者など多様な講師陣による1コマ50分の「授業」も開講され、正解のない問いに向き合う対話の場が創出される。

 前身の芸術祭からエリアを拡大して開催される「下呂 Art Discovery 2026」。各エリア間は距離があるため、基本的には車での移動、または下呂駅発着の芸術祭シャトルバスやJRとレンタサイクルの併用がスムーズだ。全エリアの作品を巡るツアーバスの活用も効率的だろう。1日での鑑賞も可能ではあるが、できれば1泊2日以上の旅程を組み、温泉や食、自然を満喫しながら巡ることを勧めたい。「日本最深部」という新たな文脈を得たこの土地と、現代美術がどのような化学反応を起こしていくのか、今後の展開に注目したい。