萩原エリア
続いて、かつて飛騨街道の宿場町として栄えた「萩原エリア」。酒蔵や和菓子屋などの店舗が並ぶ萩原商店街と、広大な森林施設が舞台となっている。

商店街に隣接する諏訪神社で作品を発表するのは、リトアニア出身のスタシス・エイドリゲヴィチウスだ。国際的に活躍するスタシスは、神社に伝わる「片目の蛇」の伝説から着想を得た彫刻を制作。リトアニアと岐阜県は、かつて多くのユダヤ人難民に「命のビザ」を発行した岐阜県出身の外交官・杉原千畝の縁で深い交流を持つ。木造社殿の内部に現れる直径5メートル、全長50〜60メートルに及ぶ銀色の立体物は、木造の神社の静謐な空間で静かに存在感を放つ。

モロッコ出身・スペイン在住のムニール・ファトミは、かつて理容店だった店舗と隣接する空き家を会場に選んだ。残された本や文房具、食器などの生活用品をワイヤーやケーブルで無数につなぎ合わせたインスタレーションは、かつてここで営まれていた暮らしの記憶や、人とものとの見えない関係性を浮き彫りにする。
そのほか商店街では、旧楽器店で時間の層をたどる竹中美幸、土蔵造りの蔵に残るオルガンと奈良時代の百万塔に着想を得たマッシモ・バルトリーニ、地域の地図をモチーフにした旗を住民と制作した佐藤悠らの作品が展開されている。商店街から少し足を伸ばせば老舗酒蔵「天領酒造」や昔から続く和菓子店など魅力的なスポットも多く、芸術祭を通じた新たな人の流れが期待される。


前身の会場でもあった県営施設「南飛騨健康増進センター」エリアでは、豊かな自然に呼応する作品群が並ぶ。同施設の「いろいろ体験ハウス」では、自然素材を用いて壁一面に壮大な壁画を描いた鈴木初音の作品を展示。古民家会場では、カメルーン出身、フランス在住のバルトロメイ・トグオがインスタレーション《癒しの水》(2026)を展開している。大小の陶器に満たされた温泉水と木々が配された空間は、鑑賞者が歩くわずかな振動で水面が揺れ、静けさのなかに緊張感を生み出している。

「健康学習センター」では、村上力が麻布を用いた独自の乾漆手法による等身大の人物彫刻群を展示。会場に点在する等身大の人物彫刻群のあいだを縫うように歩いていると、ふとどれが鑑賞者(本物の人間)で、どれが作品なのか見失ってしまうような感覚に陥る。さらにトザキケイコによる自然素材を用いた祈りの空間や、スタシス・エイドリゲヴィチウスによる杉原千畝へのオマージュ作品も同施設内に展開されている。

同センターから根越林道を進んだ森のなかには、遠藤利克の作品が現れる。苔むした道の先に現れるのは、高所から垂直に水を落下させた人工の滝だ。遠藤が「『雨』と『水』、『自然』と『人為』、『現実』と『幻想』のあいだを仮設する」と語る通り、自然と人為の境界を揺さぶる体験となる。さらに森のなかには、マデライン・フリン+ティム・ハンフリーや坂田桃歌などの作品も点在している。自然のなかに足を踏み入れるエリアのため、散策には歩きやすい靴と装備が必須だ。



















