リウム美術館で見る2つの展覧会。ク・ジョンア「OUSSSMOS」と、女性作家たちが切り拓いた経験の歴史「Inside Other Spaces」
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インスタレーション以前の「環境」をたどる

 同館のブラックボックスとグラウンドギャラリーで開催されている「Inside Other Spaces: Environments by Women Artists 1956–1976」は、現在広く使われる「インスタレーション」という言葉が一般化する以前、「環境(environment/ambiente)」と呼ばれた実践に焦点を当てる展覧会だ。

© Marian Zazeela, La Monte Young, Jung Hee Choi 사진: 홍철기. 리움미술관, MELA 재단 제공  Photo: Cheolki Hong. Courtesy of Leeum Museum of Art

 ここでいう「環境」とは、絵画や彫刻のように対象物を外側から眺めるのではなく、鑑賞者自身が作品の内部へ入り、光、音、色、空気、運動などを身体で経験する作品を指す。戦後美術のなかでこうした試みは世界各地に現れたが、展覧会終了後に解体されるものが多く、資料が残りにくかった。また、女性作家による実践の多くが既存の美術史の叙述から十分に位置づけられてこなかったことも、本展の出発点となっている。

 本展は2023年にドイツ・ミュンヘンのハウス・デア・クンストで企画され、その後各地を巡回しながら、開催地ごとの調査を取り込んでいる。ソウル展では、ジュディ・シカゴ、リジア・クラーク、ローラ・グリシ、チョン・ガンジャ、アレクサンドラ・カスバ、レア・ルブリン、マルタ・ミヌヒン、タニア・ムロ、ナンダ・ヴィーゴ、山崎つる子、マリアン・ザジーラの11人による作品が紹介されている。

136キロの羽毛とそのなか

 白い円形の空間いっぱいに羽毛が敷き詰められているのは、ジュディ・シカゴ(1939〜)による《Feather Room》(1966/2023)だ。約136キロのガチョウの羽毛によって再構成された室内へ、鑑賞者自身が足を踏み入れる。作品を見るためには、身体そのものがその素材と同じ空間を占めることになる。

ジュディ・シカゴ《Feather Room》(1966/2023) © Cheolki Hong. Courtesy of Leeum Museum of Art

 シカゴがこの作品を制作した1960年代、彫刻や建築をめぐっては硬質な素材や巨大な構造物が大きな位置を占めていた。本作では、そういった構造物とは対照的に、軽く、輪郭を維持せず、身体の移動によって絶えず形を変える羽毛で空間全体を構成。鑑賞者の足跡や衣服も、ほどなく別の羽毛によって覆われていく。

アレクサンドラ・カスバ《Spectral Passage》(1975/2023) ⓒ Cheolki Hong. Leeum Museum of Art

 階下の展示室には、アレクサンドラ・カスバ(1923〜2019)による《Spectral Passage》(1975/2023)が広がる。半透明のナイロンによってつくられた複数の空間を鑑賞者が順番に通り抜ける作品で、光の色や空間の幅が移動とともに変化していく。壁で区切られた通常の展示室内での鑑賞とは異なり、鑑賞する動線そのものが作品となっている。

56年ぶりに再構成されたチョン・ガンジャ

 ソウル展で新たに加わった作品のひとつが、韓国の実験美術を代表するチョン・ガンジャ(1942〜2017)による《無体展(Incorporeal Exhibition)》(1970/2026)だ。

チョン・ガンジャ《無体展(Incorporeal Exhibition)》(1970/2026) © Cheolki Hong. Courtesy of Leeum Museum of Art

 1970年の発表当時、本作は暗幕で覆われた空間に光や霧、サイレンなどが組み合わされており、鑑賞者は内部へ入ることが求められた。しかし作品は当時の政治状況のなかで「政治的プロパガンダ」とみなされ、会期の途中で撤去を余儀なくされた。本展では当時の新聞記事や写真などの資料に加え、作家の遺族への聞き取りを行い、作品を56年ぶりに再構成している。

 本展に並ぶ多くの環境作品は、一度解体された時点で物質的なオリジナルを失っている。残された図面や写真、書簡、証言などから、その作品をいまどのように立ち上げ直すことができるのか。展覧会そのものが、環境作品を保存し、歴史化する方法についての問いも含んでいる。

異なる時代から、「鑑賞する身体」を問い直す

 「Inside Other Spaces」の作品群が制作された1950〜70年代と、1990年代以降に活動してきたク・ジョンアの作品には数十年の隔たりがある。いっぽうで、同じ美術館でふたつを続けて見ると、「鑑賞者は作品とどのような関係を結ぶのか」という問いが異なるかたちで現れる。

ク・ジョンア「OUSSSMOS」展示風景 © KOO JEONG A. Courtesy of Leeum Museum of Art. Photo: Jeon Byung-cheol.

 ク・ジョンアの「OUSSSMOS」で鑑賞者に求められるのは、必ずしも物理的に作品の内部へ入り込むことではない。見えない磁力や重力を想像し、光が現れる時間を待ち、展示ケースのなかや建物の外に紛れ込んだ作品を探す。あるいは、それに最後まで気づかないことさえ許容される。

「Inside Other Spaces」展示風景 ⓒ Cheolki Hong. Leeum Museum of Art 

 対して「Inside Other Spaces」では、見る人は文字通り作品の内部へ入る。羽毛を踏み、色光のなかを歩き、風や音を身体で受け取ることで作品が成立する。そこでは、作品を外から眺める鑑賞者と、鑑賞される対象という区分そのものが揺さぶられる。

 ひとつは鑑賞者がすでに立っている空間の見え方そのものをずらし、もうひとつは身体を作品の内部へと導く。リウムで現在開催されている2つの展覧会は、それぞれ異なる時代と方法から、作品を見るという行為が視覚だけでは完結しないことを示している。

編集部