ソウル・漢南洞のリウム美術館で、ク・ジョンア(1967〜)の個展「KOO JEONG A: OUSSSMOS」と、国際企画展「Inside Other Spaces: Environments by Women Artists 1956–1976」が開催されている。ク・ジョンア展の会期は9月5日〜12月27日。「Inside Other Spaces」の会期は5月5日〜11月29日。
「KOO JEONG A: OUSSSMOS」はアーティスト、ク・ジョンアが、1990年代初頭から最新作まで約35点を通して30年以上にわたり構築してきた世界を振り返るもの。いっぽうの「Inside Other Spaces: Environments by Women Artists 1956–1976」はアジア、ヨーロッパ、南北アメリカで1950〜70年代に活動した11人の女性作家による「環境(environment)」を、原寸大の再構成などによって紹介するものだ。いずれも作品を自律した「物」として眺めるだけではなく、鑑賞者が空間を移動し、その身体や知覚を通して成立する体験へと視線を向ける展覧会となっている。
見えないものを作品に──ク・ジョンア「KOO JEONG A: OUSSSMOS」
M2階の展示室を中心に展開されるのが、2024年の第60回ヴェネチア・ビエンナーレ韓国館代表作家でもあるク・ジョンアの「OUSSSMOS」だ。展覧会名となった「OUSSSMOS」は、ク・ジョンアが1990年代半ばから使ってきた「OUSSS」と、宇宙を意味する「COSMOS」を組み合わせた言葉となっている。
「OUSSS」は特定の意味に固定されるものではなく、ときにエネルギーや物質、存在、世界を指しながら別の意味へと変化していく。展示は展示室の内部にとどまらず、美術館のロビーや古美術を扱う常設展示室、建物の外部にまで広がって点在している。明確に存在を主張する大型作品もあるいっぽうで、知らなければそのまま通り過ぎてしまいそうな場所にも作品が展示されている。

ロビーに現れるのは、巨大な曲面構造物《GRAVITTA》(2025)。スケートパークの一部を切り出したような形状で、その曲率はスケーターの動きや速度から導き出されている。表面には蓄光顔料が施されており、明るい時間に吸収した光を、暗闇のなかで青緑色の光として放つ。ク・ジョンアが2000年代以降各地で展開してきた、夜光性のスケートパークに連なる作品だ。会場では時折照明が消され、鑑賞者は2つのすがたを鑑賞することができる。本作では、光が蓄えられ、時間を経て別の状態へと変化すること、あるいは鑑賞者がその変化に遭遇することが作品の成立条件となっている。

作品と対峙するときのこの感覚は、は、M2に置かれた新作《MOBIOUSSS》(2026)にも引き継がれている。約8メートル幅、約6トンのステンレススチールによる構造物は、見る位置によって大きくすがたを変える。近くから見れば複数の曲面が入り組む構造体だが、上から見下ろすと、全体が無限大記号のような形を描いている。作品名は数学者アウグスト・フェルディナント・メビウスの名と、作家が長年用いてきた「OUSSS」を重ねたものだ。

ク・ジョンアは1990年代以来、角砂糖や鉛筆の芯、ナフタレンといった壊れたり消えたりする素材から、香り、磁力、光など、形を持たないものまでを扱ってきた。固定されたかたちを作品の完成形とするのではなく、時間や場所、そこにいる人によって状態が変化することを制作に取り込んできたと言える。
美術館のなかに「隠された」作品を探す
本展の特徴は、鑑賞者が作品を「見つける」という行為そのものにもある。

展示室を離れ、古美術の常設展示へ入ると、歴史的な美術品が並ぶケースのなかにク・ジョンアの作品が紛れ込んでいる。石とクリスタルからなる作品は、展示の文脈を知らなければ古美術のひとつとして通り過ぎてしまう可能性さえある。

さらに美術館の外側では、《REALITY UPGRADE & END ALONE》(2003/2026)が、M2から見える石積みの擁壁へと展開されている。石の隙間に埋め込まれた50個のクリスタルは、太陽の位置や天候、鑑賞者が立つ角度といった条件が重なった瞬間だけ光を反射するため、そこに行けば必ずしも見ることができるとは限らない。
「見ること」と同じレベルで「見落とすこと」「見えない部分を想像すること」を扱う姿勢が、今回の展示に通底していたことのひとつだ。異なる時代につくられた作品や、通常はひとつの展覧会に含まれない美術館内の複数の空間が、その「OUSSSMOS」のなかで結びつけられている。作品を追って館内を移動すると、鑑賞者の視線は展示室の内部だけでなく、常設展示や建築、窓の外へと次々に導かれる。作品があると知って注意深く周囲を見ることで、普段なら通り過ぎてしまう場所にも自然と目が向く。そうした移動を含め、美術館全体をひとつの展示空間として捉え直すような構成となっていた。
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