「覇王別姫」から三峡へ
1975年生まれの陳秋林は四川美術学院版画系を2000年に卒業し、現在は成都を拠点に、映像、写真、インスタレーション、彫刻などを横断して制作している。今回の「花園」は、2002年から現在まで約20年にわたる実践を振り返る展覧会だ。キュレーションを手がけたのは、長年中国の現代美術を見てきたイギリス出身のキュレーター、カレン・スミス。展示は2002年の写真作品《家(Home)》を起点に、陳が故郷の重慶・万州と、そこで経験した急激な都市の変化をどのように作品へと変換してきたのかをたどっていく。

その初期を代表する作品のひとつが、映像作品《別賦(Farewell Poem)》(2002)だ。京劇『覇王別姫』をモチーフとしたこの作品では、古い街並みや解体されていく建物を背景に、長い水袖(すいしお)をまとった人物が舞う。香港で見たチョン・ワイのパフォーマンスとは表現も問題意識も異なるが、「覇王別姫」という同じ古典が、それぞれ異なる文脈へと引き寄せられていることが目を引いた。

陳秋林にとって、その背景にある「歴史」はより個人的な経験と結びついている。彼女が育った万州は、長江上流、三峡地域に位置する都市だ。三峡ダム建設にともなう水位上昇によって旧市街の一部は水没し、大規模な住民移転と再開発が進んだ。陳が制作を始めた2000年代初頭は、まさに故郷の物理的な風景が急速に失われていった時期でもあった。
ここで「覇王別姫」という古典的な物語は、別れや喪失をめぐる現実の風景と重なっていく。大きな歴史の転換に巻き込まれる個人という主題は、前日に香港で見たチョン・ワイの作品とは異なる方向から、再び立ち上がってくる。




















