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「第12回ヒロシマ賞受賞記念 メル・チン展」(広島市現代美術館)開幕レポート。メディアを横断し社会を編み直す実践【3/3ページ】

ヒロシマから未来へ

 本展の最後には、ヒロシマ賞受賞を記念して制作された新作《招待》(2026)が展示されている。原子爆弾をイメージした形状の陣太鼓の上に、広島の土を使用した陶でつくられた少年が立っている。戦いの始まりを告げる陣太鼓が再び鳴らぬようその上に立つ少年は、鑑賞者に手を差し伸べながら平和への道へと招待し、未来は選び取ることができると提示している。

メル・チン《招待》(2026)FRP、備前土(広島の土を含む)、スチール、オリーブドラブ顔料(1945頃) 直径254×254 作家提供

 本作は漫画『はだしのゲン』(1973〜1987)の作者である中沢啓治(1939〜2012)へのオマージュとして制作され、中沢による軍国主義やナショナリズムに対する批判精神を現代へと継承する。チンの制作に一貫する「芸術を通じて社会を編み直し、働きかける」という理念を力強く象徴している。

記者会見でのメル・チン(左)。「鑑賞する方には提示するものを越えて、さまざまな疑問を持っていただきたい」と語った

 本展の開幕に際して行われた記者会見でチンは、ヒロシマ賞受賞について「いままで受け取ったどの賞よりも光栄」として、「人類史上最悪の事態を経験した地ともいえるヒロシマで学び、伝えてゆく責任を感じている」と気持ちを述べた。また、詩人ライナー・マリア・リルケ(1875〜1926)による有名な一節「You Must Change Your Life(お前はお前の生を変えねばならない)」を引用し、「失われてしまった人々の声を聞き直し、伝えるべきことを知ること。それは自分自身の人間性を再構築していく上でも大事だ」と語った。チンは、歴史を記録することではなく、その記憶を社会へと接続し、鑑賞する個人の思考に働きかけることを目指してきた。本展は、彫刻や絵画、アニメーション、公共プロジェクトなど、多様な実践を通して、「芸術はどのように社会へ働きかけることができるのか」という根源的な問いを提示している。

編集部