歴史を現在に接続する
第2章「逃れられない歴史」では、初期作品から最新作までを展示することで、半世紀にわたるチンの活動を紹介している。

1988年に制作された《逃れられない歴史》は、現在も続くイスラエルとパレスチナの緊張関係をテーマとした作品。パレスチナのヘブロンで採掘された大理石には1949年以降の領土境界線が刻まれ、なかでもヨルダン川西域にあたる部分は伝統的な毛織りの投石具のポケットに収められている。投石具を固定する杭には、この地で古くから栽培されてきたオリーブ材が用いられている。壁面に刻まれた円形の痕跡は、投石具が繰り返し描く軌道を想起させ、歴史的な対立が現在まで反復されている状況を示唆している。本作は、約40年を経た現在もなお本質的な解決に至っていないイスラエル・パレスチナ問題を通して、歴史的な対立が人々の記憶と生活に長く影を落とし続けることを浮かび上がらせている。

87.6×47×52.7cm サンドラ・ジェンセン・ローランドとF.クルーザー・ローランド蔵

80年代に制作された作品には、「メメント・モリ(死を想え)」を表現した《スカル・チェア》(1984)や、異質な存在の到来をテーマにした《よそから来たもの》(1985)、自分も世界の残酷さを構成する一部であるという現実を描いた《自叙伝的二連作》(1989)など観念的な主題をもつものも多く見られる。活動初期のチンが世界の様々な問題を観念的な主題として扱っていたことがうかがえる。

本展では90年代以降にチンが手がけたアートプロジェクトも紹介されている。現在も継続的に展開されている《リヴァイヴァル・フィールド》(1991〜)では、有害廃棄物処理地に有害物質を吸収する植物を植えることで「グリーン・レメディエーション(持続可能な土壌再生)」を行っている。さまざまな共同体と協働しながら、問題に対して直接的に働きかけることで、作品は鑑賞の対象にとどまらず、現実社会と結びつく営みとなっている。こうしたプロジェクトは、80年代の作品に見られた問題意識を社会の現場に接続し、チンの活動が問題を提示する表現からその解決へ向けて働きかけるものへと発展していったことを示している。
軽快なイメージの再編
本展のメインビジュアルになっているインスタレーション《ファンク&ワグナルズ百科事典:AからZまで》(2012)はチンが両親の遺品を整理した際に発見された百科事典の写真を切り抜き、コラージュを行なった作品だ。コミカルさも感じさせるダダイズム的なフォトモンタージュの手法によって、イメージは事典内での意味から解放され、新たな文脈が与えられている。


語の普遍性を担保する百科事典の写真を、個人的な視点を用いながらコミカルなコラージュにすることで、ユーモアを込めながらも知識の体系を問い直す批評的な試みとなっている。



















