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「第12回ヒロシマ賞受賞記念 メル・チン展」(広島市現代美術館)開幕レポート。メディアを横断し社会を編み直す実践

広島県の広島市現代美術館で、「第12回ヒロシマ賞受賞記念 メル・チン展」が開幕した。会期は10月12日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=大原愛美(編集部)

メル・チン《ファンク&ワグナルズ百科事典:AからZまで》(2012)The Universal Standard Encyclopedia(1953〜56年版、ウィルフレッド・ファンク社刊)から切り抜かれたページ、水性アーカイヴァル接着剤、紙 524個のコラージュ各20.3×27.9〜43.2×58.4cm 作家蔵

 広島県の広島市現代美術館で、「第12回ヒロシマ賞受賞記念 メル・チン展」が開幕した。会期は10月12日まで。担当は同館学芸員の洲濱元子。

社会を編み直すための芸術

 1989年に創設されたヒロシマ賞は、「ヒロシマの心」を美術を通して世界へ発信することを目的に3年ごとに授与される。本展は第12回受賞者であるメル・チン(1951〜)にとって日本初の個展となる。環境問題や戦争、社会的不正義など複雑な社会課題に向き合いながら、彫刻や映像、公共プロジェクトなど多様な表現を展開してきたチン。本展では代表作に加え、広島のために制作した新作を通して、芸術が社会に介入する可能性を提示している。 

 メル・チンは1951年アメリカ・テキサス州ヒューストン生まれ。1970年代より制作を開始。環境汚染や戦争、教育、経済格差など、現代社会が抱える複雑な問題を主題としながら、彫刻、ドローイング、映像、アニメーション、ゲーム、公共プロジェクトまで既存のジャンルを横断する実践を続けてきた。作品制作では科学者や地域住民、教育機関などとの協働を行い、完成した作品だけでなく、人々の関係性やプロセスも表現の一部としている。

暴力のかたちを可視化する

 本展は全2章で構成され、初期作品から近作、新作までを通覧するものとなっている。第1章「奇妙な花の下で」では、主に2001年のアメリカ同時多発テロ事件を受けて2002〜06年に制作された作品が並ぶ。アメリカ国籍を持つチンは事件を契機として、世界中の暴力や支配構造が社会に残す傷跡に焦点を当てた作品を制作するようになったという。

 本章の中心に据えられているのは、竹と紐でつくられた巨大爆弾《私たちの民主主義の奇妙な花》(2005)だ。

メル・チン《私たちの民主主義の奇妙な花》(2005)竹、藁、黄麻布、ヤシ繊維、マホガニー、スチール、ボトルキャップ 直径457.2×548.6cm 作家蔵
チンは映画『世界残酷物語』(1962)を通じて「カーゴ・カルト」の存在を知り、衝撃を受けたという

 第二次世界大戦中、太平洋諸島の一部では、欧米から運び込まれた物資を神聖な贈り物として捉える信仰運動が見られ、のちに「カーゴ・カルト」と呼ばれるようになった。しかし、この概念は西洋中心主義的なラベリングであるとの批判もあり、こんにちでは慎重に用いられている。チンはこうした歴史的背景を踏まえ、オーストラリアの北から北東に広がる諸島群にある「カーゴ・カルト」の様式でアメリカ軍の巨大爆弾「デイジーカッター」を原寸大で制作。先住民の信仰体系と近代兵器の暴力性を重ね合わせることで、民主主義の名のもとに軍事行動を正当化する国家権力への疑義を投げかけている。

メル・チン《死の車輪》(2002)ファイアストン社のウィルダネスATタイヤ、ペイント・木製パネル 182.9×182.9cm モリー・ケンプ蔵

 また、《死の車輪》(2002)では、2000年にフォード社製自動車のタイヤ破裂事故をめぐって社会問題化したファイアストン社製タイヤを素材として使用している。この事故は、フォードとファイアストンのあいだで責任の所在が争われ、親会社ブリヂストンを含む大規模な訴訟へと発展した。チンは、仏教において人間の苦しみの根源とされる「三毒」、すなわち貪欲(鶏)、怒り(蛇)、無知(豚)をタイヤのゴムを用いて形づくることで、事故の責任を曖昧にしながら利益を追求する企業構造、さらにはその背後にある資本主義への批判を作品に織り込んでいる。

 本章では、第二次世界大戦中の軍事行為から、現代の環境破壊に至るまで、世界各国の具体的な事例に存在する不公平な権力構造を起点とした作品が紹介されている。さらに参照される思想や理念、歴史的伝承はメラネシアの民間信仰、ソクラテスの死因となった植物、仏教思想など多岐に渡る。広範な知識によって作品に強度を付与するチンのリサーチの厚みを垣間見ることができる。

編集部