「第12回ヒロシマ賞受賞記念 メル・チン展」が広島市現代美術館で開催へ。日本初個展で紐解く、半世紀にわたる社会実践の軌跡

世界の恒久平和を美術を通して発信する「ヒロシマ賞」。その第12回受賞者となったアメリカの現代アーティスト、メル・チンの日本初となる個展が、広島市現代美術館で開催される。会期は7月25日〜10月12日。

Mel Chin《The Funk & Wag from A to Z》(2012) Photo credit; Michael Stravato; Image courtesy of Mel Chin Studio; Installation at the Station Museum, Houston, TX

 広島市現代美術館で、「第12回ヒロシマ賞受賞記念 メル・チン展」が開催される。会期は7月25日〜10月12日。3年に一度、美術分野において人類の平和に貢献した作家へ授与される「ヒロシマ賞」。その第12回受賞記念として企画された本展は、メル・チンの半世紀以上にわたる活動の軌跡をたどる、日本初の個展となる。

Mel Chin《Dispatcher》(1998) Collection of Michael and Driek Zirinsky; Image courtesy of Mel Chin Studio

 メル・チンは1951年、米・ヒューストン生まれ。彫刻、絵画、インスタレーションからビデオゲームまで幅広いメディアを用いて、環境問題や社会問題に深く切り込む作品を制作してきた。その活動は、地域住民との共同作業や科学的アプローチを取り入れ、アートを通じて社会意識を喚起し、新たな価値観を提示することに注力している。

 例えば、代表作「リヴァイヴァル・フィールド」(1991-)では、土壌汚染を植物を用いて修復する実験を行い、環境保護の新たな可能性を示した。また、《安全な家》(2008-10)ではハリケーン・カトリーナ後のニューオーリンズで鉛汚染に取り組む運動を象徴するアイコンとなる家を制作し、社会的責任を伴う芸術活動の意義を広めている。

爆弾が「民主主義の花」に変わるとき

Mel Chin《Our Strange Flower of Democracy》(2005) Photo credit: Judy Cooper; Image courtesy of Mel Chin Studio; Installation at the New Orleans Museum of Art

 会場は2部構成。第1部「奇妙な花の下で」では、2001年の同時多発テロ事件以降のアメリカ社会を背景とした作品を展示する。大型インスタレーション《私たちの民主主義の奇妙な花》(2005)をはじめとする作品群は、民主主義の名のもとに遂行される暴力の構造を視覚化したものだ。

Mel Chin《Cross for the Unforgiven》(2002) Image courtesy of Mel Chin Studio

 南北戦争時の弾丸から、アフリカやラテンアメリカにおける植民地支配、そして原爆投下といった近代以降の暴力の連鎖にいたるまで、チンは日常的な素材を用いて破壊の象徴を造形へと変換する。世界各地で紛争が続く現代において、破壊と理念の矛盾という事実を鑑賞者に提示する構成となっている。

分野を越境するアプローチと、繰り返される歴史

Mel Chin《Bat and Dove》(2007) Image courtesy of Mel Chin Studio
Mel Chin《Vertical Palette》(1976〜1985) Image courtesy of Mel Chin Studio

 第2部「逃れられない歴史」では、多様なメディアを横断し続けるチンの初期から現在までの歩みを紹介。中国思想やシュルレアリスム、コンセプチュアル・アートなど多様な要素を取り入れ、つねに変化を求めるチンの多彩な作品が展示される。

 いっぽうで《逃れられない歴史》(1988)では、パレスチナとイスラエルの関係性を題材にし、約40年が経過しても状況が本質的に変わらないという歴史の反復を静かに示唆する。

 また、科学的なアプローチや地域住民との協働を取り入れた「リヴァイヴァル・フィールド」や「ファンドレッド・ドル紙幣プロジェクト」(2006〜)といった長期プロジェクトの資料も展示され、アートを通じていかに社会的意識を喚起できるかを探求してきた軌跡も概観できる。

『はだしのゲン』作者へ捧ぐ、ヒロシマのための新作

 本展の最後を飾るのは、ヒロシマ賞受賞を機に制作された新作。この展示空間は、漫画『はだしのゲン』(1973〜1987)の作者である中沢啓治へのオマージュとして構想された。

 中沢の少年時代をイメージした彫像が、広島に投下された原子爆弾「リトルボーイ」を連想させる大太鼓の上に立ち、両手を差し伸べて「ともに立とう」と呼びかける姿が表現される。被爆地である広島という場所から、暴力への抵抗と共感をいかに広げていくか。チンが本展を通じて発信するメッセージを受け取る機会となる。

編集部