小さな風景から大きな事象へアクセスする
写真家の高野ユリカ(1987〜)は、現在と過去、あるいは異なる場所の時間軸が響き合う環境に着目し、それらが共存する様を「庭」のように捉えて作品化する。今回は地下回廊のような通路の壁面と展示ケースを使い、2つのシリーズを展開した。


神奈川県海老名市を撮影した「明るい場所への再訪」(2021)では、街を分断する高速道路の遮音壁、周辺住民の営み、そしてそこに自生する植物に着目。もうひとつの「New Garden」(2026)は、マレーシア・ペナン島の友人を訪ねたことから始まった思索を記録した、映像と写真による新作だ。目の前の事象を丹念に観察し、想像力を働かせることで、遠い過去やそこに絡み合う微細なものごとに目を向けるよう、鑑賞者へ静かに呼びかける。


商業デザイナーとして活動する鈴木哲生(1989〜)は、専門であるタイポグラフィの観点から、日常風景に溶け込んだ「文字」のあり方を見直し、新鮮な視点を提供する。4つにゾーニングされた空間では、文字の質感、情報量、書体、文章構成の仕組みを再考。「この文字を使えばどう伝わるか」「もしこの文字が現代にあれば、どんな文明が築かれたか」。文字という静かなインフラが社会や文化に与える影響をめぐる、想像の飛躍が楽しい内容となっている。


同館でもっとも広い地下空間に展示されるのは、アーティストコレクティブSIDE COREの代表作《rode work ver. under city》(2023)だ。複数のスクリーンを用い、スケーターたちが都市の地下空間を滑走する様子を臨場感をもって映し出している。異なる空間を映像編集によって接続し、「仮想的な地下都市」を出現させる本作は、身体的アクションによって都市の見えない余白をひらいていく試みだ。
また、この空間にはSIDE COREによって追加で建てられた柱がいくつも存在する。柱にはそれぞれ仕掛けが施されており、SIDE COREがまなざす「都市をひらく」行為を鑑賞者は体感することが可能だ。さらに、開幕直前に撮影されたばかりの新作映像も登場。こちらも見逃せない。
本展で提示されていたのは、現実の閉塞感を突破する回路を見出すための、7組それぞれの生き方と実践だ。アート、デザイン、建築、演劇といった幅広いジャンルで活動する作家たちの視点は、個人的でミクロな視点から、社会構造を見据えるマクロな視点まで豊かに広がる。そのまなざしは、我々が日々うっすらと感じている違和感と共鳴し、何気ない日常をポジティブに捉え直すためのヒントになるだろう。
館長の出原が挨拶で述べた「権力からの解放区としての芸術」という言葉を思い出す。作家たちが提示してみせたのは、社会のしがらみや固定観念を軽やかにときほぐし、世界の見方を少しだけチューニングする「生きるための回路」であった。本展は公立の美術館という立場から開催される展覧会でもあり、その制度のなかで解放区を想像することの重要性についても考えさせられる内容であった。



















