様々な視点から価値観を捉え直す
地上階と地下をつなぐ吹き抜けや、地下回廊のようなアーツ前橋のユニークな空間を、作家たちは大胆に活用している。

まず、地上階から地下への階段に現れるのは、劇作家/演出家の山本卓卓(1987〜)とアーティストの三野新(1987〜)がタッグを組んだ上演型インスタレーションだ。ここでは、2つの戯曲《あなたは必ず幸せになる》と《私は幸せになった》(ともに2026)が展開されている。近年「幸せと健康」をテーマに制作を続ける山本がシナリオを手掛け、「健康」という普遍的な価値と、社会が定義する「幸せ」の窮屈さをあぶり出したという。作品内を歩き回り、どこからか聞こえてくる声に耳を澄ませるうち、鑑賞者は「自分にとっての幸せとは何か」を自問自答することになる。

ファッションデザインを主軸とする坂本舞ニルセン(1993〜)は、既存の衣服を解体・再構築することで、衣服が本来もつ機能を超えた新たな価値を見出す。本展では、軍服の解体を通じてそれが内包する攻撃性や権威性を再解釈する《LOVEBOMB》(2025)や、資本主義社会の象徴であるワイシャツを解体して空間に配した新作《ニョコニョコ!(Power Laboration)》(2026)を展示。衣服に宿る記号性を揺るがすことを展覧会という形式のなかで試みている。

高知県を拠点に「デザイン・文化人類学」を指針として活動するグラフィックデザイナー・阿部航太(1986〜)は、路上をめぐる3つのプロジェクトを紹介。通路脇の床に置かれたモニターには、2018年のサンパウロの路上文化を捉えた《街は誰のもの?(マルチチャンネル)》(2026)が映し出されている。グラフィティ、カーニバル、デモなどの映像を通じ、個人がいかに街の風景に関わり、影響を与えているかが可視化されていた。


さらに、前橋の日本語学校に通う学生の視点から街を見つめる《シネマポートレイト前橋 2026》(2026)や、自身が土佐市で運営する、外国人技能実習生と地域住民の交流拠点「わくせい」の取り組みも紹介。異なるルーツを持つ人々との交わりを、本来あるべきポジティブな地平へと引き戻そうとする視点が印象的であった。


ダイナミックな吹き抜けを持つ地下展示室では、大阪を拠点とする建築家ユニット・ドットアーキテクツによる「つくる身体」を取り戻すための大規模なプロジェクトが展開されている。
都市生活は「誰かがつくったもの」にあふれており、我々はそれを享受して生きている。便利で効率的ないっぽうで、「誰によって、どうつくられているか」への想像力が麻痺している可能性をドットアーキテクツは指摘する。そこで提示されるのが、実際につくるスキルとメンタリティを養う学びの場「アーキジム」の実践だ。昨年開催されたプログラムの全貌が会場の左半分に、その学びを経て構想しうるものの展示が右半分に展示されている。
また、会期中には参加型ワークショップも開催予定。普段「消費をする」側にいる鑑賞者にとっても、「つくる」感覚を鍛える本プログラムは新鮮な刺激となるはずだ。



















