「おとぎの国のモードをさがして/Fairy Tale MODE」(千葉市美術館)開幕レポート。おとぎ話のイメージに息づく「モード」を探る【2/3ページ】

第3章「おとぎの国のドレス・コード」

 第3章では、登場人物たちを特徴づける「ドレス・コード」に焦点を当てる。これらは物語を瞬時に想起させる視覚的な記号であり、登場人物の性質や運命を暗示する要素でもある。

手前が、ウォルター・クレイン『赤ずきん』の絵本より《赤ずきん》(1898)木口木版、多色刷 鶴見大学図書館

 例えば、赤ずきんの「赤いフード」もそのひとつだ。多くの作品において、18世紀後半に女性たちのあいだで広まった赤いウール製マントを思わせる形状で描かれている。ウォルター・クレインによる『赤ずきん』(1898)のフードには無数のドレープが描き込まれており、中世やルネサンスの古風で優雅な装いを理想とした1870年代半ばの唯美主義運動の影響が見て取れる。金髪に赤いフードという赤ずきんのイメージは、ラファエル前派の画家ジョン・エヴァレット・ミレイ(1829〜96)やアーサー・ラッカムの作品によってさらに定着していった。

ラプンツェルの関連作品の展示風景

 挿絵画家たちの手で繰り返し描かれることで、今日我々のなかに定着したこれらの記号。会場に用意された、金色の糸を編み込んだカーテンで仕切られた展示スペースを一見しただけで、「ラプンツェル」に関連する作品が展示されているのだろうと直感できる体験からも、その記号化の強さが実感できる。ラプンツェルの「長い金髪」は、ヒロインの美しさの象徴だ。古代ギリシアの詩人ホメロスが愛の女神アフロディーテの髪を「黄金」と描写したように、金髪は古くから美と愛、そして純粋さの象徴であった。宝石やドレス以上にその美しさを際立たせる髪型もまた、重要な装いのひとつと言える。

第4章「ふたりのお姫さま」

 第4章では、「装い」が重要な役割を果たす物語のなかでも、ひときわ印象的な「シンデレラ」と「眠れる森の美女」に焦点を当てる。華やかなおとぎ話のイメージは、絵画やバレエ、オペラ、映画など、多様なメディアで繰り返し表現されてきた。会場では、これら2つの物語を巡る多様な視覚表現を紹介している。

ウォルター・クレイン「ラウトリッジ社の新6ペンス・トイ・ブックス」No.106から『シンデレラ』(1873)木口木版、多色刷 鶴見大学図書館

 「シンデレラ」のセクションでは、ウォルター・クレインによるトイ・ブックの代表作『シンデレラ』(1873)を展示。鮮やかな色彩で描かれた舞踏会の場面で、シンデレラは当時流行していた、腰の後ろが張り出した形状のスカートが特徴的なバッスル・スタイルのドレスを着用している。本作の描写から、クレインが同時代の最新ファッションを物語世界に巧みに反映させていたことがうかがえる。

第4章「ふたりのお姫さま」の「シンデレラ」セクションの展示風景

 また、本展の見どころのひとつに、おとぎ話と密接に関わる実際の衣服が展示されている点が挙げられる。王侯貴族の女性を象徴する18世紀ロココ時代の宮廷服や、近代の女性をエンパワーメントしたクリスチャン・ディオールによるドレス、身分や姿を変える「変身」の装置としての毛皮のコートなどが並ぶ。サクセス・ストーリーの代名詞である「シンデレラ」において、ドレスやガラスの靴はたんなる美の象徴ではなく、自らの魅力や可能性を解き放つ媒介であった。展示される衣服の数々は、そうしたおとぎ話とモードの重層的な関係を証明している。

第4章「ふたりのお姫さま」の「眠れる森の美女」セクションの展示風景

 続く「眠れる森の美女」のセクションでは、おとぎ話の表象においてとくにモードと深く結びつく「バレエ」の資料が展開される。20世紀初頭のパリを席巻したバレエ・リュスは、1890年初演のマリインスキー劇場版をもとに、1921年に『眠り姫(The Sleeping Princess)』を上演した。舞台美術と衣装デザインを手がけたのは、画家のレオン・バクスト。会場では、スタニスラス・イジコフスキーが着用した「青い鳥」の貴重な衣裳も見ることができる。

編集部

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