国立映画アーカイブが1億円を目標としたクラウドファンディングを開始。予算削減が迫る「唯一の国立機関」の現在地

日本で唯一の国立映画機関である国立映画アーカイブが、1億円を目標金額としたクラウドファンディングを開始した。本プロジェクトは、特定の映画フィルムの復元ではなく、収集・保存・公開といった同館の運営費全般を募るもの。6月25日に記者会見が行われた。

文:大原愛美(編集部)

6月25日に開催された記者会見の様子 左から冨田美香(同館学芸課長)、栩木章(国立映画アーカイブ館長)、諏訪敦彦(東京藝術大学大学院映像研究科教授) 画像提供:国立映画アーカイブ

 日本で唯一の国立映画機関である独立行政法人国立美術館 国立映画アーカイブが、6月25日より1億円を目標金額としたクラウドファンディングを開始。本プロジェクトは、特定の映画フィルムの復元のためではなく、収集・保存・公開といった同館の運営費全般を募るもの。クラウドファンディングサービス「READYFOR」にて、「使命は人類の記憶をつなぐこと。国立映画アーカイブの活動にご支援を」と題して概要を発表した。

 同日、京橋の同館地下1階小ホールにて記者会見が開催され、栩木章(国立映画アーカイブ館長)、冨田美香(同館学芸課長)、田中正之(独立行政法人国立美術館理事長)、そして応援メッセージを寄せた映画人を代表して映画監督の諏訪敦彦(東京藝術大学大学院映像研究科教授)が登壇し、プロジェクト発足の具体的な経緯と意図が説明された。

 国立映画アーカイブは国際映画アーカイブ連盟の正規加盟機関。1952年に設置された国立近代美術館の映画事業(フィルム・ライブラリー)をルーツに持ち、1970年には機能拡充によって東京国立近代美術館フィルムセンターとして開館。そして2018年、独立行政法人国立美術館の6番目の館として現在のかたちでの設立に至った。日本映画の世界最大の所蔵機関として、2026年3月末時点で約9万本(日本映画79750本、外国映画11125本、計90875本)のフィルムを所蔵している。

国立映画アーカイブ 京橋本館 長瀬記念ホール OZU 画像提供:国立映画アーカイブ

 同館の役割はたんなる保存庫にとどまらず、映画をスクリーンで鑑賞する場を提供することにもある。京橋本館での公開事業に加え、映画館がなくなってしまった地域の公共ホール等と連携・協力し、所蔵フィルムを全国巡回上映する「優秀映画鑑賞推進事業」を1989年から開始しており、2026年度は全国約70会場で開催される予定だ。

同館京橋本館展示室 常設展 画像提供:国立映画アーカイブ
同館京橋本館で開催中の企画展「再訪 日本のポスター芸術」では国内で制作された映画ポスターを多数展示している(会期は7月26日まで)

 さらに、オンラインでの配信サービス展開や、子ども向け上映会、工作キットの配布をはじめとする教育普及事業、YouTubeチャンネルの運営など、次世代へ映画文化を伝えるための活動を多角的に行っている。また海外からの日本映画への関心が高まり、国外での需要も見込まれるなか、日本映画や日本の作家が関わった資料をテーマにした展覧会の果たす役割も大きい。

フィルムの復元から運営費全般へ。2度目の挑戦が目指すもの

 今回のクラウドファンディングの目標金額は1億円で、期間は6月25日~9月23日 。特定の資料収集や特定の作品の復元に特化するのではなく、当館の運営費全般(収集・保存・修復・復元、上映・展示等の公開事業等)への広範な支援を求める内容となっている 。

同館京橋本館の映写室 クラウドファンディングのリターンのひとつであるバックヤードツアーでは映写室や資料保管室が公開される
同館京橋本館の資料保管室 膨大な数のポスターやスチール、パンフレットなどの資料が温度・湿度の管理された空間で保管されている

 同館のクラウドファンディングは、2021年度に実施された「国立映画アーカイブ 磁気テープの映画遺産を救え!『わが映画人生』デジタルファイル化プロジェクト」に続き、今回で2度目となる。今回はAll-in形式が採用されており、目標金額の達成有無に関わらず支援金を受け取ることができる 。支援コースは5000円から500万円まで用意され、グッズや特別体験、バックヤードツアーなどのリターンが用意されている。

国費に依存しない構造への転換要求。立ちはだかる「稼ぐ」ことの壁

 クラウドファンディング実施の背景には、非常に切迫した財政事情がある。会見での説明によれば、同館には現在、政府からの予算削減によって「国費に依存しない財政構造」への転換と「基幹事業を保つ」ことの両方が早急に要求されている。しかし、美術館の入館料値上げなどとは異なり、映画の上映や展示室の観覧による自己収入を急激に増加させることは現実的に容易ではない。 

 実際に2024年度の予算内訳を見ると、年度当初の予算約7億3733万8000円のうち、運営費交付金配分額が6億8291万7000円を占め、自己収入目標額は5442万1000円に設定されていた。しかし、今年度の映画にかかわる収集、保存、復元、ニュープリント製作等の予算は1億2300万円となっており、前年度より大幅に削減されるなど、国費の削減がダイレクトに事業に打撃を与えている状況だ。

スクリーン=映画学校の心臓。55名の映画人が鳴らす警鐘

 本プロジェクトの公開に合わせ、特設ページには映画監督、俳優、研究者など、55名の映画人から切実な応援メッセージが寄せられた 。メッセージのなかで、映画監督・早川千絵は「《東京物語》(1953)や《七人の侍》(1954)がいまや誰も見ることのできない幻の映画だったら、と想像することで感じられる喪失の大きさについてコメント。また、同じく監督の山下敦弘は《丹下左膳百万両の壺》(1935)にスクリーンで出会った感動を述懐した。 

6月25日の同館での記者会見にて 左から田中正之(独立行政法人国立美術館理事長)、諏訪敦彦(東京藝術大学大学院映像研究科教授)

 会見に登壇した諏訪敦彦は、文化的、教育的なインフラとしての同館のアーカイブの存在の重要性を訴えかけた。メッセージ内でも「最も優れた映画学校はどこか? と言えば、それは全国に点在し、優れたプログラムで古今東西さまざまな映画を映し続けるスクリーン」と語り、同館を「スクリーン=映画学校の心臓」と表現している。

 是枝裕和や黒沢清、濱口竜介らを筆頭に、第一線で活躍する映画人たちにとって、国立映画アーカイブは古今東西の名作と出会い、映画の歴史を学ぶ場所そのものであった。映画文化をたんに消費される娯楽としてではなく、人類の記憶や文化遺産として残していくために、同館の取り組みと今回のクラウドファンディングの成否が注目される。

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