国立の美術館が所蔵する作品は、原則としてその館を訪れなければ観ることができるものだ。名品として知られていても、実際に目にする機会は決して多くない。国立アートリサーチセンター(NCAR)が立ち上げた「国立美術館 コレクション・ダイアローグ」は、そうした状況を前提に、国立のコレクションをどのように社会と共有し直すかを問いかける事業である。たんなる巡回展示ではなく、開催館が自館の所蔵品と組み合わせ、研究テーマごと再編集することで、新たな意味を引き出す。その第1回として岐阜県美術館で実現したのが、「大正・昭和“モード”の源泉」展だ。
本展の軸となる国立工芸館のコレクションは、いわゆる日本の伝統工芸にとどまらない。陶磁、漆工、染織、金工、ガラス、木竹工、人形といった素材別の工芸はもちろん、工業デザインやグラフィック・デザインまでを視野に収め、近代以降の造形実践を横断的に捉えてきた、日本唯一の近現代工芸・デザイン専門の国立美術館である。この幅の広さがあるからこそ、「モード」という言葉を、服飾史の枠を超えて、生活と視覚文化の総体として扱うことが可能になる。

展覧会は、国立工芸館所蔵の工芸・デザイン作品152点に、岐阜県美術館所蔵の絵画・工芸作品を重ね、大正から昭和初期にかけての日本における“モード”の形成と変容をたどる。ここでいうモードとは、たんなる流行や装いではない。アクセサリーや家具、金工、ガラス、さらには雑誌やポスターといったグラフィックが同時に変化し、人々の生活感覚そのものが更新されていく過程を指している。工芸は鑑賞の対象である以前に、触れ、使われ、身につけられる存在であり、モードとは物質を通して社会の欲望や自己像が可視化される現象でもあった。





























