妖精たちの世界に託した、人間の物語
──LABUBUはいまや世界的なカルチャーアイコンとなっていますが、誕生当初はどのようなイメージを持っていましたか。また、ここまで大きな存在になると予想していましたか?
カシン・ロン まったく予想していませんでした。いまのような人気や広がりを見せるとは、本当に想像もしていなかったですね。
そもそも私が『THE MONSTERS』を創作した当時、この作品は非常にニッチなものになるだろうと思っていました。物語自体が比較的ダークな内容でしたし、子供の頃から親しんできた北欧の絵本や物語の要素を取り入れていたので、広く受け入れられるというよりは、限られた人たちに向けた作品になると考えていたんです。
じつは15年ほど前から、香港のデザイナーズトイブランド「HOW2WORK」とアートトイを制作していました。その頃から『THE MONSTERS』を立体化したいという思いはありましたが、当時はまだそのタイミングではないと判断し、別のシリーズを先に展開していました。
その後、いくつかのプロジェクトを経て、10年ほど前に「いまこそ『THE MONSTERS』を出すべきだ」と感じたんです。ただ、そのときも大きな反響や成功を期待していたわけではなく、あくまで自分の好きなものをかたちにしたいという気持ちから始めました。
実際、最初の1年間はそれほど大きな反応があったわけではありません。ところが2年目頃から、アートトイやデザイナートイのコミュニティのなかで少しずつ話題になり始めました。その反響がアートトイ・デザイナーズトイのブランド「POP MART」の目にも留まり、コラボレーションの話につながっていったのです。

──子供の頃にオランダへ移住し、絵本を通じて言語を学んだ経験が『THE MONSTERS』の世界観に影響を与えたとお話しされています。ヨーロッパの民話や伝承は、具体的にどのような影響を与えたのでしょうか?
ロン 私は7歳のときにオランダへ移住しました。当時はオランダ語がほとんど話せず、先生の言うことも十分には理解できませんでした。そのため、学校ではたくさんの絵本や童話を読むよう勧められたんです。最初は語学を学ぶためでしたが、結果的にそれらの本が私の創作の大きな糧になりました。いま振り返ると、『THE MONSTERS』の世界観の原点は、まさにその頃に読んでいた本のなかにあったと思います。
私がオランダで過ごした1980年代、学校にあった本の多くは1950〜60年代に出版された絵本や児童文学でした。とくに北欧の作家たちの作品には強く惹かれました。一見すると子供向けの物語ですが、その背景には戦争の記憶や不安が色濃く反映されています。多くの作家が第二次世界大戦を経験した世代だったため、作品にはどこか暗さや影があるんです。

例えば『ムーミン』シリーズにも、彗星が地球へ落下してくるエピソードがあります。子供の頃は冒険物語として読んでいましたが、大人になって振り返ると、その背景には戦争や核兵器への不安が投影されていることが見えてきます。
私はそうした少し不穏で、どこか悲しさや怖さを含んだ物語をたくさん読んで育ちました。その影響もあって、自分でも単純にかわいいだけではない、人間の感情や闇の部分を含んだ物語をつくりたいと思うようになったのです。
だから『THE MONSTERS』のキャラクターたちは、一見するとかわいらしく見えますが、その奥には少しダークで複雑な世界が広がっています。それは、私が幼い頃に親しんだヨーロッパの童話や児童文学から受け継いだものだと思います。
──改めて『THE MONSTERS』の世界観について教えてください。LABUBU以外にも様々なキャラクターが登場しますが、その関係性も含めてご紹介いただけますか?
ロン 『THE MONSTERS』は広大な妖精たちの世界を舞台にした物語です。LABUBUもその世界に暮らす種族のひとつで、スマーフのように同じ姿をした仲間たちが数多く存在しています。そのLABUBUたちを見守る存在としてZIMOMO(ジモモ)がいます。見た目は似ていますが、より大きな存在で、いわば兄のような立場のキャラクターです。

また、骸骨の姿をしたTYCOCO(タイココ)はLABUBUのパートナーであり、ふたりは恋人同士のような関係にあります。ほかにもYAYA(ヤヤ)やPIPPO(ピッポ)など、様々な種族のキャラクターが登場します。ただ、ここ数年は絵画制作や展覧会の準備に多くの時間を費やしてきたため、この世界観を物語として十分に展開する機会がなかなかありませんでした。
じつは来年、新しい絵本を出版する予定です。世界同時発売を予定している新作で、LABUBUがひとりの少女と出会い、新たな物語を繰り広げます。その作品では、これまで十分に描くことができなかった『THE MONSTERS』の妖精たちの世界を、より本格的に紹介できると思います。
──なぜ「MONSTERS(怪物)」というモチーフを選んだのでしょうか。また、『THE MONSTERS』ではどのような現実や人間社会を描こうとしているのでしょうか。
ロン じつは最初から「モンスターのIPをつくろう」と考えていたわけではありませんでした。『THE MONSTERS TRILOGY』を制作した当初、私は全部で10本ほどの物語を構想していました。そのなかから3つの物語を選び、ひとつの三部作としてまとめたのです。
なぜこの3作品を選んだかというと、それぞれが異なるテーマを持っていたからです。家族愛、友情、そして愛情──人と人との関係のなかで生まれる感情を描いていました。
私が描きたかったのは、モンスターや妖精そのものではなく、人間の物語です。友情に試される瞬間や家族との葛藤、愛する人との出会いと別れなど、私たちが日常のなかで経験する出来事を表現したかった。妖精やモンスターは現実から少し距離を置いた存在だからこそ、それらを通して語ることで、人間関係や社会をより普遍的に描けるのではないかと思いました。
私は昔から、人間の感情や関係性を描く作品に惹かれてきました。現在制作している新しい絵本も少女とLABUBUの物語ですが、その根底には私と娘との関係が反映されています。私が見たり経験したりしたこと、日々の生活のなかで感じたことが、物語の出発点になることが多いですね。

































