水が運ぶ記憶と生命の循環
チャンは1973年に宝石彫刻の徒弟として制作を始めて以来、半世紀以上にわたり水と向き合ってきた。石を彫る際には工具の冷却のためにつねに水を用い、その過程で音と水との密接な関係にも気づいたという。工具が鋭利であるほど音は小さく、逆に大きな反響音は負荷や亀裂の危険を示していた。こうした経験は、後に超音波洗浄や冶金研究へと発展し、水を物質ではなく、エネルギーや記憶を運ぶ媒体として捉える視点につながった。
チャンはインタビューで、水について次のように語っている。「雲も雨も蒸気も氷も、すべて水の異なる姿です。水は空へ昇り、再び地上へ戻りながら、前の世代の記憶を携えています。かつて生命を潤した水は、再び別の生命を潤していきます。私はその循環と輪廻に強く惹かれています」。

この考え方は、展覧会全体を構成する「誕生―成長―死」という主題にも直結している。死は終わりではなく、新たな循環の始まりであり、水の変容と同様に生命もまたかたちを変えながら続いていく。その視点は仏教的な輪廻観とも響き合いながら、宗教や文化を超えた普遍的な生命観として提示されている。
また本展では、「音」も重要な役割を果たしている。チャンにとって音は、水と同様に目に見えないが確かに存在する媒体だ。制作においても、彼は長年にわたり周波数や振動と素材との関係を研究してきた。インタビューでは、超音波によって水中に発生するキャビテーション現象や、音が物質に与える影響についても言及している。
こうした関心は、ヴェネチアという都市そのものとも結びつく。本プロジェクトではヴェネチアと上海という、いずれも水と深く関わる2つの都市が舞台となる。チャンは「両都市は水によってかたちづくられ、記憶を蓄積しながら変容し続けています」と語り、2つの場所をひとつの循環する物語として位置づけている。




















