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水が記憶を運び、生命は循環する。ウォレス・チャン、ヴェネチアでの新作展が描く「異世界の器」

香港を拠点に活動するアーティスト、ウォレス・チャンが、ヴェネチアと上海を結ぶ大規模プロジェクト「Vessels of Other Worlds」を始動した。ヴェネチアのサンタ・マリア・デッラ・ピエタ礼拝堂で開催中の展覧会をレポートする。

取材・文=王崇橋(編集部)

展示風景より Photo by Federico Sutera

 第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の開催にあわせ、香港を拠点とするアーティスト、ウォレス・チャンの個展「Vessels of Other Worlds」がサンタ・マリア・デッラ・ピエタ礼拝堂で開催されている。会期は10月18日まで。

ヴェネチアと上海を結ぶ「異世界の器」

 本展は、今年7月に上海の龍美術館で開幕するチャンの個展と連動する2都市同時プロジェクトであり、チャンにとってこれまでで最大規模の試みとなる。キュレーションを手がけたのは、これまで複数回にわたりチャンの展覧会を担当してきたジェームズ・パットナムだ。

 チャンは1956年香港生まれ。16歳で宝石彫刻を学び始め、その後独学で芸術を学んだ。30代後半には出家し、約16ヶ月にわたる修行生活を経験。その後、コンクリートや銅、ステンレスを用いた彫刻制作へと活動領域を広げていった。近年ではその作品が大英博物館やヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、上海博物館などに収蔵されている。

ウォレス・チャン、「Vessels of Other Worlds」展にて Photo by Federico Sutera

 本展は、2021年の「Titans」、2022年の「Totem」、そして2024年に同じピエタ礼拝堂で開催された「Transcendence」に続くもので、チャンにとって4度目となるヴェネチアでの大型プロジェクト。とりわけ前回展「Transcendence」は、ブライアン・イーノによるサウンドスケープとともに3万人以上を動員し、大きな反響を呼んだ。今回の「Vessels of Other Worlds」は、その延長線上にありながらも、より生命の循環や生成に焦点を当てた、新たな局面を示している。

展示風景より Photo by Federico Sutera

 展覧会タイトルの「Vessels of Other Worlds(異世界の器)」が示すように、本展の中心にあるのは「容器」という概念だ。チャンはそれを、記憶や精神、時間の流れを宿す存在として捉えている。

 会場となるピエタ礼拝堂の祭壇には、カトリックの祝福儀礼で用いられる3つの聖油「Olea Sancta」に着想を得た3点のチタン彫刻が配置された。その背後には3連祭壇画のように3面の映像スクリーンが設置され、上海の龍美術館に展示される巨大彫刻群へとつながる「ポータル」として機能している。作品は「誕生」「成長」「死」という生命の3段階を象徴し、その造形はヒエロニムス・ボス《快楽の園》(1503-04頃)からもインスピレーションを得ている。さらに周囲には水滴を思わせるチタン作品群が浮遊し、礼拝堂全体を流動的な空間へと変貌させている。

会場では、3連祭壇画のように3面の映像スクリーンも設置されている Photo by Federico Sutera

編集部