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「ウジェーヌ・ブーダン展─瞬間の美学、光の探求」(SOMPO美術館)開幕レポート。印象派の先駆者が捉えた豊かな光の表情に注目【3/3ページ】

自然のなかに息づく建築、動物、そして人間の営み

 自然風景のイメージが強いブーダンだが、その関心は建築や動物、人々の営みにも及んでいた。第4章から第6章では、その多様な視点を紹介している。

オランダの都市を描いた《ドルトレヒト》(1884)
《ヴェネツィア、サン・ジョルジョ・マッジョーレ》(1895頃)。ブーダンはその晩年、憧れの地でもあった水の都・ヴェネツィアを何度も訪問し、その風景を精力的に描いた

 第4章「建築 旅する画家が見た風景」では、画家を目指し、パリでの模写修行を通じてブーダンが吸収した17世紀オランダ風景画の影響を感じさせる、石造りや木造建築を描いた作品が並んでいる。

《海辺の牛》(1880-85)。トロワイヨンの作品を、あえて習作のような粗い筆致で描き直した本作は、そのあまりに自由な表現が当時の愛好家たちを困惑させたという

 第5章「動物 身近なものへの眼差し」では、ブーダンの故郷ノルマンディーの風土が反映された作品を紹介している。湿潤な気候で牛の飼育が盛んだったこの地を描いた風景画には、多くの牛が描き込まれているのが特徴だ。本章では、かつて教えを受けた動物画の名手コンスタン・トロワイヨンの作品を、画商デュラン=リュエルの依頼によってブーダンが独自の解釈で描き直した作品なども展示されている。

《トルーヴィルの魚市場》(1865-72)。抽象的な画面がタイトルと呼応することで、イメージを想起させる

 また、港町ならではの光景を捉えた《トルーヴィルの魚市場》(1865-72)からは、船乗りの息子として漁師たちに囲まれて育った彼ならではの視線が感じられる。

 第6章「人物 戸外の群像表現」では、大自然のなかで生きる人間の姿が描かれる。家族や海辺で働く人々を、風景の一部として、あるいは生活の主役として捉える手法に、ブーダンの「自然のなかの人間」に対する関心が見て取れるようだ。

《洗濯する女性たち》(1881-89)。自然と人間が混じり合い、風景の一部として描かれている点に、その場の空気感をそのままを捉えようとしたブーダンの真髄が感じられる
ブーダンによる素描の数々。左から《川辺の家》(1855-58頃)、《樹々の習作》(1855-58頃)

 さらに、章の合間に設けられた「素描」や「版画」のセクションも本展ならではと言える。対象の本質を掴むための鍛錬として、ブーダンがいかに素描を重視していたかが垣間見えるとともに、その創作のプロセスを深く理解することができるだろう。

 ブーダンがモネに出会ったのは1856年頃、パリから故郷ノルマンディーにブーダンが戻った時期だ。当時、風刺画家として活動していた16歳年下のモネを戸外制作に誘い、「現場で直接描くこと」の大切さを説いたという。もしブーダンとモネの交流がなかったら、のちのモネによる傑作の数々は生まれていなかったかもしれない。

 印象派の歴史が語られるときには必ずその名が挙がるにもかかわらず、ひとりの画家としてはなかなかスポットライトが当たらなかったブーダン。しかし本展は、彼の光の捉え方や自由な筆致が、当時いかに革新的であり、次世代へつながる大きな転換点であったかを、改めて強く体感させてくれるものとなっている。

編集部

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