リトアニア出身のリナ・ラペリーテによる《The Speech》は、7つの映像によるインスタレーション作品だ。本作はもともとパリの現代美術館「ブルス・ドゥ・コメルス」で行われたライブパフォーマンスで、5歳から17歳までの子供たちが想像上の動物の言語を使ってそれぞれの想いを声に出しあうというもの。何かを相手に伝えたり納得させるための発声ではなく、相手の声を聞き、その場に共存するための発声に、観客はなにを感じるだろうか。

声や音を「聴く」という行為をうながす作品のひとつとして、メキシコ出身のアーティストであるタニア・カンディアニによる《Prologue II. Resonant Blossoms》も紹介したい。竹でできた大きな帽子のようなものが天井から吊られており、観客はその下に潜ることができる(実際は高い位置に吊るされているため、大人でも問題なく作品の下に立つことができる)。スピーカーが内蔵されており、そこからはヤン・ジエ(Digimonkの名前でも活動)が録音し編集したサウンドスケープ(川が流れる音や木が風に揺れる音など)が流されている。本作を通じて、「耳を傾ける」という他者理解のための行為を、人間以外のものに対して実践することの意義を再考したい。

嗅覚に着目した作品を発表したのは、中国の広東省と景徳鎮で活動するタン・ジンだ。タンは韓国の香りの研究者と共同で、古代の媚薬のつくり方を参考に新しい香りをつくり出した。媚薬は、誘惑や脅威を感じさせる存在として非難されてきた歴史もあるが、浸透し伝染するという香りならではの特徴によって、あらゆる境界を越境してきた存在だとも考えられる。新たな感覚的コミュニケーションの再考を試みる本展において、「香り」「嗅覚」といったものへの眼差しは欠かせないだろう。

2階の奥のカーテンで仕切られた空間に展示されているシャオ・チュンの作品も見逃さないでほしい。中国の黄州出身のシャオは、オンライン上で見つけた素材を用いて、彫刻、映像、環境音を組み合わせたインスタレーション作品《Twinland》を展開している。ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)などの動画の流行といったオンライン上での文化に支えられた消費構造について言及しながら、魅力的でありながらも、その操作的な側面について着目した作品となっている。




















