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「第15回上海ビエンナーレ」開幕レポート。非人間との感覚的コミュニケーションを通じてひらく新しい芸術の可能性

中国・上海にある上海当代芸術博物館を舞台に開催される「第15回上海ビエンナーレ」が開幕した。今年の総合テーマは「Does the flower hear the bee?(花はミツバチを聞くのだろうか?)」。会期は2026年3月31日まで。

文・撮影=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、Allora & Calzadilla《Penumbura》(2020)

 中国・上海にある上海当代芸術博物館を舞台に開催される上海ビエンナーレ。中国でもっとも長く続く国際展として知られる本芸術祭は今年で15回目を迎えた。チーフキュレーターはキティ・スコット、共同キュレーターはデイジー・デロジエとシュエ・タン。会期は2026年3月31日まで。

 今年の総合テーマは「Does the flower hear the bee?(花はミツバチを聞くのだろうか?)」。キティ・スコットはこのテーマを設定した背景について次のように語る。「ミツバチが集まると、互いにコミュニケーションを取り知識を共有することは、ずっと前から知っていた。(略)しかしじつは花もまた情報を集めており、ミツバチの羽ばたきによる振動を“聞き”取り、より甘い蜜を分泌することがわかってきた」。第15回上海ビエンナーレは、この事実を出発点に、作品・鑑賞者・環境の間に新たな感覚的コミュニケーションのあり方を築くことに挑戦する。またコミュニケーションは人間同士のものだけではなく、人間以外の様々な生命体間のものを対象としている。

 会場となるのは、例年と変わらず上海当代芸術博物館だ。1〜3階の各フロアで作品が展開されている。

 1階には、フィラデルフィア出身のジェニファー・アロラとキューバのハバナ出身のギレルモ・カルサディーラの2名(Allora & Calzadillaの名前で活動)による《Penumbura》が展示されている。天井から大量の黄色い花が吊り下げられている様子は圧巻だ。本作は花がメインのように見えて、じつはアトリウムに差し込む光の移ろいに着目したものだ。時間帯やそこにいる人々の動きなどによって変化し続ける光や影の様子は、つねに歴史を構成する「いま」という時間が進行し続けていることを思わせる。

展示風景より、Allora & Calzadilla《Penumbura》(2020)

 ほかにも、ニュージーランドのオークランドを活動拠点とするブレット・グラハムによる《Ka Wheeke》や、ロサンゼルスで活動するカルメン・アルゴテによる《Me At Market》といった大型作品を含む全15名のアーティストの作品が同じく1階で紹介されている。

展示風景より、ブレット・グラハム《Ka Wheeke》(2024)
展示風景より、カルメン・アルゴテ《Me At Market》(2020-25)

 巨大な展示会場の使い方にも注目したい本展だが、なかでも印象深い空間の使い方をしていたのは、陶芸家・安永正臣だ。その空間とは、1階から2階へ上がるための階段である。安永は三重県伊賀市を拠点に活動を行っており、今年は「GQ Creativity Awards」を受賞したことでも知られる。安永の作品は、釉薬を素材のメインとしており、窯に入れて焼成した後の変化が著しい特徴をもつ。自身でコントロールできない作品の変化を「人間の理解を超えた出来事」と考え、安永はその不確かさにこそ魅力を感じるという。本展では、大きな陶器を下から見上げるだけでなく、3階から見下ろすことも、間近でそのディテールを観察することもできるため、様々な角度や距離から作品に対峙し、受ける印象の違いをぜひ体感してほしい。

展示風景より、安永正臣の作品