まず会場を入ると、ざわざわという文字が書かれた布や壁に囲まれた空間に、《袋法師絵巻》という春画が登場。本作には、ひとつの画面に同じ人物を複数描くことで時間の経過を表す異時間法が用いられている。
作品の右側は、夕方に女主人の館へ法師が侵入した場面が描かれるが、そのまま左へ視線を移すと夜へ切り替わる。ここで突如法師の顔が現れ、ドキッとしつつ、違和感を覚えるような構図となっている。自らの視線の動きと同時に心も動いていることに気づき、ここから始まる本展で起こりうる心の「ざわめき」を予感させるプロローグと言えるだろう。

会場を奥に進むと本章が始まる。第1章は「ぎゅうぎゅうする」。ここでは、「〇〇尽くし」のデザインに着目した作品が登場する。なかでも日本で古来より親しまれてきた「尽くし文」の作品が登場。
「尽くし文」とは、同じ意味や種類のモチーフを集めた文様のこと。その代表格である「宝尽くし文」を表した《色絵寿字宝尽文八角皿》の見込には、15種もの宝物がぎゅうぎゅうに詰まっている。主に徳川将軍家への献上品としてつくられた鍋島(江戸時代の佐賀藩の藩窯「鍋島藩窯」で焼かれた日本最高級の磁器)の七寸皿として名高い本作は、これでもか、というほどおめでたい文様で埋め尽くされている。

また重要文化財になっている《日吉山王祇園祭礼図屛風》には、右隻に約770名、左隻に約1280名の人物が描かれており、人尽くしの絵画と言えるだろう。よく見るとひとつの絵画のなかにも様々な場面が描かれていることに気づく。

本章では、「〇〇尽くし」デザインの世界観を拡張するため、普段あまり展覧会では目にしないような数のキャプションによって、「説明し尽く」されている。作品紹介だけでなく、新しい作品の見方を提案する本展ならではの工夫を感じられる。



















