1. 生涯、水辺を描き続けた風景画家
本展では、東京展、大阪展をあわせて全75作品が出品されていますが、その大半が水辺の情景を描いた作品です。ノルマンディーの海辺やセーヌ河、ロンドンのテムズ河沿いの風景をはじめ、「雪」や「氷」「霧」といった水分要素の多い作品も含めると、画面の中に「水」が描かれた作品は実に50点以上にのぼります。
モネは生涯を通じて、目の前の一瞬の動きや空気感を表現することを追求しました。光を反射し、季節や天候、時間によって目まぐるしく表情が変わる「水面」は、光の効果を描くには格好のモチーフでした。
「水」の描かれ方は実にバラエティに富んでおり、色彩もタッチも各作品ごとに大きく異なっています。まずは、モネが「水面」をどのように描こうとしたのか、画面に描かれた「水」に着目してみましょう。「彼は水のラファエロだ」とマネから称賛されることもあったモネが、実に多彩な表現の引き出しを備えていたことがわかります。
2. モネの風景画を読み解く3つのキーワード「季節」「天気」「時間」
モネの絵には、西洋で伝統的に描かれてきた宗教画や神話画に含まれるようなストーリー性は含まれていません。描かれているのは、画家の眼前にあらわれた「一瞬の光」のみです。彼はストーリーを探すのではなく、絵になる「光」をひたすら探しました。魅力的な画題を得るためなら、夜討ち朝駆けはもちろん、嵐吹く断崖絶壁や極寒の豪雪の中でも平気で出かけていき、屋外での制作にこだわりました。
したがって、モネの風景画を初めて見る際は、その絵が一体「いつ描かれたのか」を考えながら絵に向き合うと、鑑賞の手がかりがつかめることが多いのです。
具体的には、描かれた「季節」「天気」「時間」の3つの要素を考えてみましょう。これらを自分なりに考えてみることで、モネの鋭い観察眼に気づけたり、「こういう風景、どこかで見たことがあったな」と自分の記憶の中に蓄積されていた美しい風景のイメージが蘇ってくることもあったりするでしょう。
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