東京・六本木の国立新美術館で、「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」展が開幕した。会期は5月11日まで。
本展は、1980年代後半から2000年代初頭にかけて制作された英国美術に焦点を当て、約60名の作家によるおよそ100点の作品を通して、1990年代英国美術の創造的なエネルギーとその広がりを検証する試みだ。
共同キュレーターを務めるヘレン・リトル(テート・ブリテン 現代美術部門キュレーター)は、本展について「テートの優れたコレクションを用い、1980年代後半からミレニアムにかけての大きな変化のなかで生まれた英国美術の力強い物語を提示したい」と語る。
英国ではこれまで、1990年代の美術史は個々の作家の大規模回顧展を通して語られることが多かった。これに対し本展は、少数の作家に絞るのではなく幅広く作品を集め、年代順ではなく主題ごとに作家と作品を編み直した構成が特徴となっている。
序章では、20世紀英国美術を代表する画家フランシス・ベーコン(1909〜1992)を起点に据える。1944年の《ある磔刑の基部にいる人物像のための三部作》を踏まえ、冷戦終結期に描かれた《1944年のトリプティック(三幅対)の第2ヴァージョン》(1988)は、暴力や不安、恐怖といった感情を通じて、後続世代が直感した社会の混迷を象徴的に示す。

1980年代後半、サッチャー政権下で進められた新自由主義政策は、英国社会に格差と不安を広げた。そうした状況のなかで登場したのが、のちに「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)」と呼ばれる作家たちである。
第1章「ブロークン・イングリッシュ:ニュー・ジェネレーションの登場」では、その中心人物のひとりダミアン・ハーストが観客を迎える。《後天的な回避不能》(1991)では、煙草の吸殻と灰皿をガラスケースで密閉し、「避けることのできない死」を突きつける。

また、1960年代から活動するギルバート&ジョージの《裸の目》(1994)は、エイズ危機のただなかで身体を前面に押し出し、性と政治をめぐる状況に向き合った。さらにルベイナ・ヒミドら、移民やディアスポラの経験を持つ作家たちは、歴史と現在を往復しながら、アイデンティティや帰属を問い直していく。

1990年代初頭のロンドンでは、未完成の建築物や再開発、ジェントリフィケーションが日常の風景となっていた。第2章「おおぐま座:都市のイメージをつなぐ」で紹介されるレイチェル・ホワイトリードの写真シリーズは、取り壊される集合住宅を記録し、経済の論理のもとで消えていくものの存在感を浮かび上がらせる。

いっぽう、ジリアン・ウェアリングの映像作品《ダンシング・イン・ペッカム》(1994)は、公共空間で踊る作家の姿と周囲の反応を通して、都市に潜む緊張とユーモアを描き出す。サイモン・パターソンの《おおぐま座》(1992)もまた、都市を別の視点で読み替える象徴的な作品として位置づけられている。






































