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すずえりインタビュー:美術家として、女性として、科学を取り扱うこと

楽器や自作回路を組み合わせた実験音楽やインスタレーションの制作を行うすずえり(鈴木英倫子)は、「第18回 shiseido art egg賞」を受賞した個展で発明家の一面を持つ女優ヘディ・ラマーを題材とし、通信技術と女性の身体性の変容を表現した。公募への挑戦から、実在の人物を起点とする独自の制作プロセス、そして表現の根底にある思考の軌跡まで、受賞を果たした作家の創作について話を聞いた。

聞き手=畠中実 撮影(*除く)=手塚なつめ

インタビュー中のすずえり(鈴木英倫子)

TOKASから資生堂ギャラリーへ

──「shiseido art egg」に応募しようと思ったきっかけを教えてください。また、今回の資生堂ギャラリーでの展示は、すずえりさんにとってどのような機会となりましたか。

 年齢制限のない公募展となると、知名度のある賞でいますぐに思いつくのは「岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)」か、資生堂ギャラリーの「shiseido art egg」の2つです。年齢制限のない公募展のひとつとして、2023〜24年にはトーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)の公募プログラム「OPEN SITE 8」にも参加しました。その際、私の展示スペースの下の階で、アーティストの野村在さんが出展されていたんです。野村さんは「第17回 shiseido art egg賞」の受賞者でもあり、それがきっかけでこの賞に興味をもちました。

 これまでにも比較的小規模な展示はいくつか行ってきましたが、TOKASや資生堂ギャラリーといった大きな会場での展示が続いたことで、複数の作品を用いて、どのようにひとつのストーリーを構成するかを考える良い機会になりました。また、知名度のある銀座のギャラリーでの展示だったため、私のことを知らない方々にも作品を見てもらえる、非常に貴重な機会になったと感じています。

──今回の受賞について、どのような感想を持たれていますか。やるからには受賞を狙っていたと思いますが。展示内容は、2024年にTOKASで発表されたものの延長線上にありながら、これまでの作品のアイデアが格段にアップデートされたような印象も受けました。とても素晴らしい展示でした。

 賞金ももらえるし、もちろん受賞できるとよいなとは思っていました。そのいっぽうで、制作費も出ますし、やってみたいことがあったので、展示ができれば充分だとも思っていました。

 展示設営に関して言えば、私は本当に素人でしたね。2024年のTOKASも、今回の資生堂ギャラリーも、どちらの展示も設営業者の方に依頼していただきました。TOKASの際は、普段自分でするときと同じように「設営しながら考えよう」と思っていましたが、当たり前のことですが、時間になると業者の方は帰ってしまい、慌てました。その経験を踏まえて、資生堂ではもう少し計画的に進めようと考え、ガントチャートでスケジュールを組んでから設営を始めました。

──「可視光通信」をテーマとした制作も長く続けられていますよね。今回の展示は、これまでの活動の集大成として構想されたのでしょうか。

 個人的には、テーマと手法が運良くハマったという感触です。今回の展覧会では、現代の通信技術の基礎を生み出した女性発明家であり、ハリウッド俳優のヘディ・ラマーを中心としたストーリーを展開しています。そのなかで、私自身が長くモチーフとしてきたピアノを取り入れつつ、そこに可視光通信の作品を組み合わせた構成を考えました。私はもともと実験音楽のフィールドで活動しており、美術でのキャリアは浅いので、回顧展というよりも、新作を加えながら旧作をアップデートをしていったというかたちに近いかもしれません。

 ピアノは本来、もっとも大きな展示室に設置する予定でしたが、資生堂ギャラリーの独特な展示空間を生かすことを考え、その部屋には可視光通信を用いた電球のインスタレーション《メルクリウス - ヘディ・ラマーの場合》(2022〜)を展示しました。奥の小さな展示室は吹き抜け空間が特徴的だったため、そこにピアノを設置し、上の階と通信できる構成にしました。

《ピアノは魚雷にのらない》(2025)。吹き抜けの上階には、下図の《逆説の十戒》(2025)が展示されている 写真提供=資生堂ギャラリー(*)
《逆説の十戒》(2025) 写真提供=資生堂ギャラリー(*)

──大きな展示室に広がる電球のインスタレーションが、天井高のある空間にとてもマッチしていて印象的でした。

 そうですね。企画の段階では私自身あまりイメージできていなかったのですが、ギャラリー空間の特徴に詳しい資生堂側から提案を頂いたんです。「電球も30個から40個に増やして……」みたいな感じで。「えっ、これ以上増やすの?」と思いましたが、床もツルツルしているので、電球の光が反射してとてもきれいに見えました。予想していなかったので、こちらも運がよかったと思います。

展示風景より、《メルクリウス - ヘディ・ラマーの場合》(2022–) 写真提供=資生堂ギャラリー(*)

編集部