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「古筆切 ―わかちあう名筆の美」(根津美術館)開幕レポート。様々なアプローチから知る名筆の楽しみ【4/5ページ】

書画一体の美を楽しむ「古筆と料紙の調和美」

 その書の趣とともに、古筆切の見どころのひとつに料紙の美しさがある。高級品とされた唐紙に金銀泥や砂子で装飾したり、飛雲や打雲などの漉紙、幾枚もの紙をつないだ継紙など、当時の紙作りの高度な技術にも驚嘆する。特徴のある料紙に書かれた古筆との調和の美を楽しんだら、もう一度料紙に注目して会場を巡ってみたい。古筆切を入手した人がこだわった表装の美も楽しみを加えてくれるだろう。

「4.古筆と料紙の調和美」展示風景より
展示風景より、伝 藤原公任筆《石山切(伊勢集断簡)》(12世紀、個人)。5種の紙が継がれたみごとな技術に注目

 各所には「コラム」として、どのように古筆の筆者を特定してきたのか、その鑑定の記録である極札(きわめふだ)の実例、各切の名称(切名:きれめい)がどんな由来でつけられたのか、などのトリビア的な知識も紹介されていて、より鑑賞を深めてくれるのが嬉しい。

コラム「切名の由来」展示風景より

 そして最大の魅力は、「わかちあう美」。

 一冊の本が、一巻の巻子がバラバラになってしまっているのは残念なことではありながら、分断されてもなお大切に残し伝えられたこと、また分断されたゆえに全部の喪失を逃れたことでもある。さらには、限られた人物にとどまらず、多くの人々の目に触れ、鑑賞されることが可能になり、その美が広がったからこそ、いま私たちもまた楽しめるのだ。本展はそんな喜びをメッセージしている。

編集部