日本を代表する現代美術家・宮島達男の作品《Sea of Time- TOHOKU》。これを恒久設置するための新しい美術館が、2027年に竣工する。
同館が位置するには、福島第一原発、第二原発の中間地点にある居住人口2565人の福島県富岡町。東日本大震災で大きな被害を受けた町だ。
宮島は東日本大震災発生時、石巻にボランティアとして参加した経験を持つ。被災地支援を行うなか、時間とともに忘却される震災の記憶に対して、自分なりの「おとしまえをつける」ため、2015年頃に本作の構想をスタート。震災の犠牲者の鎮魂と震災の記憶の継承、そして未来を考えるための場所を目指している。
美術館を構成するのは、地元の人々を中心に3000名近くの人々とのワークショップ・対話を重ねて作品を生み出された3000個のLED。これらが大きな水盤(浅く水を張った設備)に設置される。宮島にとってこのLED設置数は過去最大規模だ。
「時の海」は宮島が1988年のヴェネチア・ビエンナーレでも見せた作品であり、直島にも《SeaofTime'98》が常設されている。直島で島民とともに作品を制作した際、「参加することで参加者の誇りと自信につながるという確信を持った」という宮島は、今回も参加型の作品を選んだと話す。
美術館が建つのは、海が見える小高い崖の上。富岡駅から車で5分という好立地だ。建設予定地の総面積は約3万6744平米(サッカー場約5面分。取得予定分含む)。建築は「場所の記憶」をテーマに掲げる建築家・田根剛が担う。
建物は円形で、長方形の作品の周りを建築が覆うかたちとなる。作品の水盤の先には、福島の海が見える構成だ。田根は、「この場所が毎年3.11に、人が集う場所になってほしい。富岡の方々が未来に向かう場所となれば」と語っており、地元住民が関わるかたちでの美術館建設を目指すという。
ただの「ハコモノ」ではなく、住民とともにつくる世界でひとつだけの場所を目指す《時の海-東北》美術館(仮称)。なお土地は宮島が自費で購入しており、今後の建設費用は約20億円。これから資金調達を本格化させる。